うつ病の予防・治療に効果あり
ポジティブを増やす心理学
◎肯定的に考える、ポジティブサイコロジーとは?
ストレスによって脳が疲労し、うつ病になると、ネガティブ(否定的、消極的)な考え方にとらわれ、ポジティブ(肯定的、積極的)に物事を受け止めることが難しくなります。いわば、ネガティブ思考の渦の中に巻き込まれてしまったような状態です。そこで近年注目されているのが、ポジティブサイコロジー(ポジティブ心理学)を用いた心理療法です。「ネガティブを減らす」という従来の治療法に対して、「ポジティブを増やす」ことに重点を置いているところに特徴があります。さて、ポジティブサイコロジーがいったいどういうものなのか、医療の現場で実際にどのように取り入れられていて、どのような効果が期待できるのかということについて紹介します。
第1章「ネガティブを減らす」から「ポジティブを増やす」に
従来のうつ病の治療法は、苦しんでいる人の苦しみを和らげることに主眼が置かれていました。うまくいっていない部分を修正し、ネガティブな部分を減らすという手法です。それはそれで必要で大事なことですが、ポジティブサイコロジーは、苦しんでいることがあったとしても、その苦しみを打ち消すぐらいに良いところを活かしていけばいいのではないかという考え方に基づいています。「ネガティブを減らす」のではなく、「ポジティブを増やす」ことによって、病気を克服する力にするのです。
とはいえ、ネガティブをポジティブに変えるのは、簡単ではありません。うつの症状が進んでいる人は、どうしてもネガティブなことにとらわれがちだからです。そのような人にいきなり「ポジティブな気持ちになりなさい」と言っても、ハードルが高すぎて、できないことで逆に悩んでしまいかねません。
ポジティブサイコロジーを用いて、患者さん自身がポジティブな部分に目を向けるようにする治療法は、ある程度回復した状態でなければ難しいというのが実感です。入院患者であれば2~3カ月間の入院期間の後半、退院間近な時期に実施するのが妥当だと思われます。
第2章「よかったこと日記」でポジティブな部分が見えてくる
では、ポジティブサイコロジーを用いた心理療法とはどのようなものなのか―。まずは「よかったこと日記」について、私が勤務する不知火病院(福岡県大牟田市)での実践例をもとに説明しましょう。
「よかったこと日記」は、その日一日を振り返って、良かったことを三つ書くというものです。書く事柄は「アイスを食べておいしかった」でもいいですし、「〇〇さんと会って楽しく話ができた」でもいい。ささいなことでいいのです。そして、その良かったことの理由についても記します。難しく考える必要はありません。「少し運動をしておなかがすいたからおいしく食べることができた」でもいい。毎日書き続けることが大事です。
ひどい一日だったと思っていても、意外に良かったことがあります。大事なことを忘れていたと気付くこともあります。良かったことを探しだして書き留めることで、自分のポジティブな部分が客観的に見えてきます。
第3章「強みテスト」で「強み」を客観的に把握して活かす
ポジティブサイコロジーでは、「強みテスト」というものも用いることがあります。これは、自分の「強み」を知ることを目的にした自己採点式のテストです。「好奇心と関心」「学習意欲」「判断力や偏見の無さ」など、さまざまな質問に対する回答結果を集計して、自分自身がどういう点に強みを持っているかを客観的に把握することができます。
弱いところ、できないことを見つけて、その部分を修正するためのテストではありません。あくまでも、自分の「強み」=ポジティブな部分に光を当てるためのテストです。テストの結果を受けて、自分の強みを仕事や日常生活で活かしているのか、これから活かしていけるのか、強みを活かすために他の人の協力を仰ぐ必要があるのか、などといったことを治療者と一緒に考えていきます。
ただ、この「強みテスト」は時間がかかるので、退院後に進むべき道を見つけられずにいる人など限定的にしか活用できていないのが現状です。
第4章マインドフルネスと併用することで相乗効果が生まれる
不知火病院では、入院患者の集団療法と外来患者のショートケアで、マインドフルネスとポジティブサイコロジーを活用したグループ治療を実施しています。
マインドフルネスは、自分の今現在の心と身体がどのような状態にあるのかということに気付くことによって、ストレスを軽減し、心を穏やかにする心理療法です。うつ病患者の場合、ネガティブ思考の影響が強いため、マインドフルネスで自分を見つめていると、自己否定感が強まり、自己評価が低下することがあります。ただ、いろいろなことに気付くことによって、自分のネガティブさに気づきやすくなるのと同時に、自分が持っているポジティブさに気付くことにもつながります。
そうしたことから考えると、マインドフルネスとポジティブサイコロジーという二つの治療法は相互に関連して補うような関係にあって、併用することで相乗効果が生まれると考えています。
最後に
うつ病になる人は自分に厳しく、物事がうまくいかないときに自分を責める傾向があります。自分を攻撃する一方で自分を守ろうとする意識も働きますから、それが続くと疲れ切ってしまいます。そういうときに、ポジティブに考えることを身に付けていると良い方向に修正することができるでしょう。うつ病の再発を防ぐためにも、新しい思考パターンや行動パターンの習慣化が必要です。自分の良いところに目を向け、強みを活かしていけば、人生も輝きます。
今回のまとめ
ポジティブな感情に目を向けよう
1日の終りに良かった事を思い浮かべて
マインドフルネスと併せて相乗効果
ポジティブに考える習慣を