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もしかしてあの人は?うつ病の人がとる行動の判断ポイント

◎もしかしてうつ病?うつ病の人がとる行動は?家族や身近な人ができること

うつ病の症状は、気分が落ち込む抑うつ気分や、判断力・集中力の低下のほか、身体的な不調としてもあらわれます。放置したままで治療が遅れると、重症化のリスクが高まります。しかし、初めてそのような症状を体験した人が「精神科の病院で診てもらおう」とすぐに自ら病院へ足を向けるということはあまりないかもしれません。そうした場合、家族や身近な人が早めに不調に気づいてあげて、早期受診・早期治療につなげることが重要だと考えます。うつ病治療の専門病棟がある福岡県大牟田市の不知火病院での臨床例を参考にしながら説明します。

第1章「食事」「睡眠」「会話」の変化といった行動から見えるうつ病のチェックポイント

ご家族や身近な人が「この人はうつ病かもしれない」と気付くことができるいくつかのチェックポイントがあります。「食事」「睡眠」「会話」という3つの観点から説明しましょう。

まず「食事」です。うつの症状が進行すると、多くの場合、食べる量やスピードに変化があらわれます。食事の量は減ることが多いのですが、過食傾向になる人もいます。うつ病の人かもしれない人がとる行動として「食事のスピード」は速くなる場合も、遅くなる場合もあります。

味がしなくなった」とか、「食欲がなくなった」という変化も、うつ病の兆候を表すサインになっていることがありますが、これは本人だけが感じる主観的な感覚なので、本人が言わない限りは周りの人には分かりません。その点、食事の量やスピードは、その変化を客観的に捉えることができるといえるでしょう。うつ病になると、大好物だった食べ物を食べなくなるようなこともありますが、こうした変化も身近な人であれば気づきやすいかと思います。

次に「睡眠」です。うつ病になると、寝つきが悪くなったり、就寝しても夜中に目が覚めてしまう中途覚醒や、朝早く目覚める早朝覚醒に悩まされるようになったりします。睡眠時間が十分でないために、朝すっきりと起き上がれない場合もあります。いわゆる〝睡眠の質〟が低下するのです。食欲と同じで、眠たいという主観的な感覚は周囲の人には分かりづらいことです。しかし、家族や身近な人であれば、以前に比べて遅くまで起きているなどといった、ちょっとした変化に気づくことができると思います。

きもちよく眠れていますか?
きもちよく眠れていますか?

そして三つ目が「会話」についての変化。口数が減り笑顔が消えてイライラしながら話すようになったというような変化です。会話の内容も、今まで好きだったスポーツやテレビ番組に関する話題に触れなくなるなど、何事にも興味や関心が薄れ、意欲の低下がみられるようになります。

第2章集中力や判断力の低下から最悪の事態を招かないために早期受診・治療を

うつの症状が進行してくると、集中力や判断力が鈍ってきます。そうすると、不慮の事故やけがに遭いやすくなります。社会人であれば職場で、学生であれば学校で、今までならば考えられなかったようなミスをしてしまうこともあります。そうした状況が続けば、心ならずも退職や退学といった事態につながりかねません。最も避けたいところではありますが、うつの症状により自ら命を絶つ行為に及ぶ恐れもあります。そうならないために、早期受診、早期治療が大事なのです。

さて、先述した「食事」「睡眠」「会話」という3つの観点で、家族や身近な人が異変を察知したときに、本人にどのような言葉を掛けたらいいのでしょうか。また、どう対処すれば早期受診、早期治療につながるのでしょうか。

うつ病の患者さんは、自分の能力や適性がないからだと自責的になる傾向があります。「自分のせいだ」と思い込むことが多いのです。実際はそうではなく、うつ病はストレスが引き起こす、誰でもかかり得る病気であるということ、休養や治療によって回復する可能性があることを本人に伝えて、病院で専門医の診察を受ける方向へ進めてください。

第3章本人のつらい思いに共感し、安心感を与えるメッセージを

とはいっても、ご家族の言うことを聞いてくれないケースがあります。精神科の病院で診察を受けることへの漠然とした不安や抵抗感があることも否定できません。うつ病に初めてかかった人であれば、なおさらのことです。

こうした場合、まず、本人のつらい思いに共感してあげることが大事です。親兄弟など親しい間柄だと、ついつい問い詰める様な口調になったり、きつい言葉を浴びせたりしがちですが、それは決して症状の改善につながりませんし、むしろ症状を悪化させかねません。本人が言っていることを頭ごなしに否定せず、とにかく耳を傾けるのです。「わたしはあなたの味方だよ」というメッセージを与えることによって、本人に安心感が生まれます。そのうえで、食欲がないとか、眠れないとか、うつ病かもしれない人がとる行動を見ながら、今現在困っていることを改善するために病院の力を借りてみようと提案してみてください。

的確なアドバイスより共感が大事です
的確なアドバイスより共感が大事です

うつ病のことを正しく理解するために、うつ病や心の病気をテーマに書かれた本を読むことも有効だと思います。しかし、さまざまな情報が氾濫している中で、正しい情報を取捨選択するのは容易ではありません。内容によっては必要以上に不安をあおることにもなりかねないので、注意が必要です。

第4章児童・思春期のうつ病は不眠や頭痛など身体的症状としてあらわれやすい

うつ病は大人の病気だというイメージがあるかもしれませんが、実は高校生や中学生小学生でもうつ病にかかることがあります。いわゆる児童・思春期のうつ病です。

大人のうつ病では、抑うつ気分(気分の落ち込み)が典型的な症状として見られますが、児童・思春期の場合は不眠や頭痛、腹痛、下痢、食欲低下など身体的な症状が目立ちます。子どもは自分の気分の落ち込み具合を表現しにくいということもあって、うつ病かどうかの診断は慎重に行わなければなりません。また、「朝起きてこない」「反抗的な態度をとる」といったうつ病患者に見られる行動は思春期の子どもたちにもよくあることで、一般的な反抗期の行動とうつ病の症状との違いが見えにくいということもあります。それでも、集中力や判断力が低下し、成績が急に落ちるようなことがあって、診察を受けた結果、うつ病と診断されるケースもあるのです。

児童・思春期のうつ病患者に対しては、症状がある程度回復した段階で、いったい何がストレスの要因になっていたかということを振り返り、突き止めて、再び同じような症状が出たときに、どのように対処したらいいかを医療スタッフと一緒に考えます。

最後に

ここまで、うつ病かどうかについて気づくことができるチェックポイントなどについて説明しました。「食事」「睡眠」「会話」という3つのチェックポイントを挙げましたが、このほかにも、チェックポイントとして、「朝の身支度」があります。通勤・通学で出掛ける前の身支度に時間がかかるようになったとか、おしゃれだった人が同じ服やネクタイばかり身に着けるようになったとか、だらしなさが目立つようになったとか、うつ状態になると見られるこうした変化は、ご家族や身近な人が気づきやすいチェックポイントといえるでしょう。最後になりましたが、うつ病に関することで思い悩んでいる方は、症状をそれ以上悪化させないためにも、ためらわずに専門病院にご相談ください。

今回のまとめ

  • 食事・睡眠・会話の変化に注意を

  • 悩みにはアドバイスより共感を

  • 早期治療が早期回復のカギ

  • 抱え込まず専門病院に相談を

あの人はうつ病かも?身近な人のためのチェックポイントのまとめ

書いたヒト福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院ストレスケアセンター海の病棟( うみのびょうとう )

福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院ストレスケアセンター「海の病棟」
うつのトリセツ うつ病を知る、防ぐ、チェック、治す。うつ予防のためにできることを。