精神心療内科での入院が必要なレベルは?しっかり休息し、うつ病の回復を早めるために。
◎うつ病の入院治療に特化、ストレスケア病棟とは?
「うつ病になっているのかもしれない」と心配している人、その人の家族、あるいは職場の同僚や上司など近しい人たちにとって、「どこの病院で診てもらったらいいのか」という情報は大変気になるところ。仕事をしている人にとっては、通院(外来)治療でいいのか、それとも休職して入院治療が必要なのレベルなのかということも気掛かりでしょう。今回は“病院探し”に関して役に立つ情報をお届けします。福岡県大牟田市の不知火病院のソーシャルワーカー(精神保健福祉士)が、うつ病の入院治療に特化したストレスケア病棟に関する説明を中心に、入院治療のメリットについて紹介します。
第1章うつ状態が軽症、重症にかかわらず、入院治療のメリットがある
同じ精神科の病院でも、病院によって得意とする専門分野が異なります。私が勤務する不知火病院には、うつ病治療に特化したストレスケア病棟がありますが、どこの精神科の病院にも同様の病棟があるわけではありません。アルコール依存症の治療に実績がある精神科の病院もあれば、摂食障害や認知症など、それぞれの病気の治療に特徴を持つ病院があります。
うつ病にかかっているのかどうかを心配して受診する病院を探しているのであれば、うつ病の治療を得意とする精神科の病院を選択したほうが、より早い回復につながるということができるでしょう。
入院したほうがいいレベルなのかどうかを考えるうえで知っておいてほしいのは、重症でなければ入院できない、軽症であれば入院しなくていいということでは必ずしもないということです。うつの症状が重いと、症状が軽い人に比べて社会復帰が遅くなるかというと、それも必ずしもそうではありません。
重要なのは、身体も頭(脳)も、十分に休養できる環境にあるのかどうかということ。休養が十分にできていないと、うつ病は治りにくいということを理解してください。重症であっても自宅でしっかり休養できるのであれば通院治療で良くなる人もいますし、逆に軽症の人でも自宅で休養できる環境がなければ、なかなか良くならない人もいます。
第2章症状の問題なのか、性格(価値観)の問題なのか?
休養といっても、単に体を横たえればいいということではありません。うつ病は端的に言えば、脳の病気です。しっかりと脳を休ませることが必要です。しかし仕事を休んで自宅療養を続けるだけでは休養に専念できない場合があります。ほかの家族がふだんどおりに生活をしている様子を見ているだけで、焦りや自責感が強くなって、症状を悪化させることがあるのです。自営業で自宅兼職場の場合もそうですが、特に専業主婦の場合、ある意味「自宅=職場」ですから、いっそう休養できる環境には向かない場合が多いです。
入院すれば、24時間体制で患者さんの状態を事細やかに把握できます。そうすると、入院して初めて見えてくることがあります。たとえば、患者さん本人が不眠を訴えているとします。ところが入院して様子を見ていると、実際にはよく眠れているというケースがあります。病気の症状というよりは、性格的なものや価値観が関係しているような場合があって、治療法もそれに応じて変わることがあります。
入院治療の場合、外来治療と比べて、医療スタッフや他の患者さんと関わる機会が増えることで、安心感を得られるというメリットもあります。医療スタッフとの信頼関係が深まることによって、心のうちに抱えていたものを吐き出すことができるようになり、症状の回復を早めることにもつながります。
深刻なのは自死(自殺)の問題です。うつ病患者は多くの場合、自らの命を絶とうとする気持ち(希死念慮)が症状としてわき起こります。しかし、この問題も、入院することで症状を軽減し、具体的なサポート態勢を取ることで、最悪の事態を未然に防ぐことも期待できます。
第3章早期回復、社会復帰のために暗いイメージを払拭したストレスケア病棟
不知火病院が全国に先駆けてうつ病治療専門のストレスケア病棟である「海の病棟」を開設したのは今から約30年前の1989年。当時はうつ病に対する理解があまり浸透していませんでした。パソコンやスマートフォンでインターネットを介してさまざまな情報を検索できるようになった今とは隔世の感があります。患者さん本人も、ご家族も、職場も、情報不足が理解を妨げる要因になっていたと思われます。
うつ病の疑いがあっても、精神科の病院は誤解や偏見もあって一般的に暗いイメージを持たれていて行きづらく、内科や耳鼻科などで対症療法的に治療を受けている人たちが少なからずいました。しかし、それでは根本的な治療にはなりません。
うつ病は早期に治療に取り組まなければ、それだけ回復が遅れる傾向があります。できるだけ早い段階で受診してもらうためにも、従来の暗いイメージを払拭し、開放的で明るく、訪れやすい雰囲気を持ったうつ病治療の専門病棟をつくる必要があったのです。
不知火病院が「海の病棟」を開設後、うつ病治療のストレスケア病棟を持つ病院が全国各地で増えていきました。2000年に日本ストレスケア病棟研究会が発足。不知火病院をはじめ20施設を超える病院が研究会に参加し、互いに治療技術の向上を図っています。
第4章再発予防の根幹は「自己理解」ストレスに向き合い、立ち向かう
ストレスケア病棟が果たすべき役割は何かというと、大きく分けて二つあります。それは「症状回復」と「再発予防」です。「症状回復」で大事なことは、患者さんに休養に専念してもらって、悪くなった症状を取り除くこと。それで症状が良くなれば、うつ病が完全に治ったかというとそうではありません。もう一つ大事なのが「再発予防」で、症状が再発しないようにするための対策を立てる必要があるのです。
うつ病は再発しやすい病気で、一般的に生涯再発率(一度うつ病になった人が一生涯のうちに再発する確率)は約8割といわれています。再発予防の対策にしっかり取り組まなければ、瞬く間に再発してしまう恐れがあります。
入院初期の「症状回復」と入院後半に取り組む「再発予防」では、ストレスへの対処法に違いがあります。「症状回復」の段階ではストレスが極力かからないようにすることが大事。一方、「再発予防」のためには、何が原因でうつ病になったのかを自分自身で振り返ったうえで、社会復帰したときに備えてストレスに立ち向かい、上手に乗り越える力を身に付けなければなりません。
具体的な例を一つ挙げると、入院されている患者さんを対象とした復職支援プログラムでは、患者さんがうつ病になるきっかけとなったと思われる出来事を本人と医療スタッフがまるで再現ドラマのように演じるロールプレイを治療の一環で実施していますが、それもストレスに耐える力を付けるための一種のトレーニングといえます。
最後に
ストレスケア病棟の治療プログラムは長い年月をかけて積み上げられてきました。入院直後の休息期から回復期へと進み、退院準備期を経て退院に至るまで、医師の診察や薬の処方だけでなく、作業療法やカウンセリング、復職支援プログラムなどを通じて、患者さんの状態を細かく観察し、確認しながら治療が進みます。不知火病院の場合は、患者さんに内省を促して病気の原因を探り、自己理解を進め、いかに再発しないようにするかということに重点を置いてきました。特に復職支援プログラムを受けて退院した患者さんの復職率が8割に上ることからも、治療プログラムの有効性は示されているといえると思います。
今回のまとめ
自分の病状にあった病院選びを
まずはしっかり休息できる環境が最重要
ストレスとの上手な付合いが再発防止に
早期の治療が早期の回復につながる