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入院して良くなるの?
うつ病の入院治療の効果とは

◎うつ病の入院治療の有効性とは

うつ病は、脳が極度に疲労を起こした状態です。環境の変化に伴う反応でうつ状態に陥ることもあります。軽い症状であれば精神科の病院に通いながら治療を受け、症状が重いのであれば入院治療を考えなければならないでしょう。さて、うつ病で入院後に行われる治療とは実際にどのようなものなのでしょうか。うつ病の入院患者の治療に当たっているストレスケア病棟の担当医師が、実例をもとにしながら、入院治療の有効性や、チーム医療がもたらす効果などを説明します。

第1章うつ病患者には逆効果になりかねない温泉旅行

ここに、うつ病の症状で苦しんでいる人がいたとします。心配した家族が、温泉でゆったり気分転換すれば回復するのではないかと考え、本人を誘って旅行に出かけました。さて、症状は改善するでしょうか。答えは、ノーです

身体的なことであれば、疲労してこわばった筋肉を温泉でほぐす効果があるでしょう。ところが、脳の疲れは身体の疲れと同じではありません。健康な人であればリフレッシュできることなのに、抑うつ的な気分になっている人にとってはかえってストレスになり、逆効果になりかねないこともあるのです。うつ病の症状が見られる人は、とにかく負荷をかけずしっかり休養を取ることが大事です。

無理せずベッドでゴロゴロ過ごすのも悪くありません
無理せずベッドでゴロゴロ過ごすのも悪くありません

自宅で過ごしていると、家族が心配するあまりに関わり過ぎて本人が居づらくなってしまうことがあります。また、休養するといっても、いつまでゆっくりすればいいのか分からずに不安になったり、休んでばかりの生活が続くのではないかと罪悪感を抱いたりして、本人も、家族も不安に押しつぶされそうになります。そんな場合に入院治療は有効だと考えます。

第2章うつ病の入院患者はチーム医療でサポートする

一般的に、精神科の病院に入院すること自体が大変なことだと思われているかもしれません。誤解や偏見もあり、本人はもちろん、家族が不安を覚えるのも無理はありません。しかし入院すれば患者本人は居場所ができたと感じることができますし、病院の中で見守られているという安心感を得られます。同じ病気で症状が改善していく患者が周りにいて、その姿を見ることによって、入院治療後の自分の姿を容易に想像することができます。それも入院治療の効果です。

病院ではチームで治療に当たります。医師がチーム全体の監督、コーチの役割を担い、看護師や作業療法士、精神保健福祉士、薬剤師、栄養士などが連携して患者をサポートします。担当する患者と目標となるゴールを設定し、治療プランを立て、毎週定期的に開くスタッフミーティングで情報を共有し、検証しながら治療を進めていきます。例えば、休職して入院した患者が退院後に復職するというゴール設定があれば、そのゴールに向けて、どの程度まで負荷をかけてもいいのかということなどをスタッフ間で話し合いより良い方向性を見いだしていきます。

第3章うつ病の治療では、患者が「自分を知る」ことを手助けする

うつ病は、自分の力以上のことを出し続けようとして、あるいは我慢に我慢を重ねて自分の許容量を超えてしまって発症するとされています。予防・治療のためには、自分の力を把握することが大事。私たち医療スタッフは、患者本人が「自分を知る」ための手助けをするのです。入院患者が治療に取り組む姿勢や態度からも、その患者特有の性格や思考パターン、行動パターンが見えてきます。チーム医療に携わるスタッフ間で情報を共有して、個々の患者に適した治療を探りながら施していきます。

陶芸など体を動かす活動を通じて回復を図る作業療法を実施しているときにしばしばあることですが、なかなか思うようにできない入院患者がいます。あるとき、作業療法で失敗を繰り返し、観葉植物の鉢を蹴り倒した入院患者がいました。本人は「分かっているけど、できないんだ」などと怒るのです。この患者の場合は、感情を表に爆発させ、それを私たち医療スタッフが時間をかけて受け止めることで回復に向かいました。ただし対応の仕方は一様ではありません。ケースバイケースです。

自分を知ると行動も変わります
自分を知ると行動も変わります

第4章「海の病棟」で睡眠と覚醒のリズムの改善図る

私が勤務する福岡県大牟田市の不知火病院には、うつ病治療を専門にするストレスケアセンター「海の病棟」があります。病院の建物は有明海沿いの広大な埋め立て地の一角に建てられています。埋め立て地というと、人工的で、土ぼこりが舞うような雑然とした風景を思い浮かべる人がいるかもしれませんが、決してそうではありません。

海の病棟」の病室は、河口に面した南向きの窓から太陽の光が差し込む設計になっています。有明海に注ぐ川は潮の干満の影響があり、川面に反射した陽光もゆらゆらと揺れながら病室の窓を照らします。

うつの症状が悪化すると、夜になっても眠れず疲労が蓄積していきます。いわゆる睡眠障害と呼ばれる症状で、睡眠と覚醒のリズムがおかしくなるのです。自宅でカーテンを閉めっぱなしの暗い部屋に引きこもり、寝転がっている状態が続けばなおさらです。それが「海の病棟」の場合、晴れた朝になると、病室の窓から朝日が入ってきて、入院患者は嫌でもまぶしくて目が覚めます。入院当初に睡眠障害がひどかった患者も、昼間は起きて活動し、夜間はちゃんと眠るように自然とリズムが改善していくのです。まだデータとして整理して分析したものではありませんが、様々な患者を治療していく中で、確かにそう感じています。

最後に

うつ病で入院して退院間近になったときに、不思議と不安な気持ちに襲われる患者がいます。病院の外の世界に戻っても大丈夫なのか、うつ病が再発したのではないかと不安を感じるのです。しかし、それは自身の不安な気持ちに正面から向き合っている結果で、順調に回復し、社会に適応できるようになった証拠ともいえます。逆に退院前にハイテンションになって、カラ元気を出しているような患者の方が実は心配です。

入院患者は3カ月間の治療プログラムの中で、不安な気持ちにどう立ち向かえばいいのかということを学び、体験します。けがや病気で動かなくなった身体をリハビリで動かせるようにするのと同じように、うつ病の再発を防止する「心のリハビリ」に取り組んでいます。そして私たち医療スタッフはチーム一丸となって、患者の「心のリハビリ」を支援しているのです。

今回のまとめ

  • 無理な気分転換は逆効果

  • 入院治療でまずしっかり休息を

  • 健康的な生活リズムを取り戻して

  • 心をリハビリして再発防止に

入院して良くなるの?うつ病の入院治療の効果とは

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院医師髙田 和秀( たかだ かずひで )

うつのトリセツ うつ病を知る、防ぐ、チェック、治す。うつ予防のためにできることを。