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うつ病になってしまったら?
作業療法の役割と効果

◎うつ病治療での作業療法の役割と効果について

うつ病の治療プログラムの中に作業療法というものがあります。うつ病の治療というと、一般的には抗うつ薬など薬による治療をイメージされるかもしれませんが、それだけではありません。薬以外の治療法もあるのです。作業療法を簡単に説明すると、患者が創作活動やスポーツなどに取り組むことを通じて、社会復帰に向けて機能を回復し、日常生活をスムーズに送れるようにするためのリハビリテーションです。

ここでは、作業療法の「作業」がどのようなものなのか、作業療法によってどのような効果が期待できるのかということについて、うつ病治療の専門病棟がある福岡県大牟田市の不知火病院に勤務する作業療法士が、実例を交えて具体的に説明します。

第1章うつ病患者の作業療法は精神的なリハビリとして行われる

まず、作業療法とは何かについて説明しましょう。法律によると、作業療法は身体または精神に障害がある人に対して、社会的適応能力などの回復を図るために、手芸や工作などの作業を介して治療に役立てる事だとされています。つまり、身体的な障害を負った人の回復を図るための作業療法もあれば、精神的な障害を負った人に対応する作業療法もあるということ。

うつ病患者に対する作業療法は、整形外科などで行われるような身体的なリハビリではなく、精神的なリハビリということになります。作業療法士は、医師の指導の下で作業療法に携わる国家資格を持った専門職です。

身体を動かすと心も動きます
身体を動かすと心も動きます

さて、作業療法が実際にどのように行われているのか。不知火病院のうつ病治療専門のストレスケアセンター「海の病棟」を例に説明を進めましょう。

3カ月間入院治療プラン休息期(1~3週目)から回復期(4~8週目)、退院準備期(9~12週目)と3段階があり、入院から2~3週目の休息期に、回復期に実施する作業療法の内容の検討に入ります。医師や看護師、作業療法士など多職種の医療スタッフが週1回集まるカンファレンス(会議)で治療方針や情報を共有。患者さんと面接し、症状の程度本人の意向などを踏まえて、作業療法のプログラムを決めて実施していきます。

第2章「作業」は趣味的活動ではなく、あくまでも治療の一環

それでは、作業療法の「作業」とはどのようなものでしょう。「海の病棟」での作業療法の週間プログラムは現在、月曜日が手芸(革細工か刺し子)、火曜日が陶芸オープンレクチャー(自身の病気に対する理解を促す心理教育)、水曜日は月2回の院外活動(近郊への日帰り小旅行など)、木曜日が音楽療法(伴奏に合わせての合唱など)、金曜日がスポーツ(3人1チームで対戦するファミリーバドミントン)―となっています。

事前の面接で患者さんの趣味や特技などについて確認はします。しかし、これはやりたいけれど、あれは嫌だなどと本人の意向通りに選べるというものではありません。その点、学校のクラブ活動や、公民館の文化教室とはまったく違います。あくまでも治療の一環社会復帰に向けたリハビリなのです。

作業種目の選択に当たって、基本的には本人が経験したことがないか、または経験が少ない種目を選ぶようにします。なぜなら、なじみのある作業だと、病気になる前と比べて思うようにできないことで「やっぱり自分はダメだ」などとかえって自己否定感が強まり、落ち込んでしまう恐れがあるからです。

第3章「作業」そのものが目的ではなく、社会復帰に向けた訓練

患者さんにとって難易度が若干高いくらいの作業が達成感回復感を得られやすいと言えます。そうした観点から、患者さんが嫌だという作業種目でも、あえて取り組むように勧めることがあります。退院して実社会に戻れば、苦手で嫌なことでも逃げずに対処しなければならない事態に直面することがきっとあるでしょう。作業療法はそうしたときにも適応できるようにするための訓練なのです。

作業療法は、作業そのものが目的ではありません。陶芸で皿やコップを作っても、いかにきれいに仕上げるかということは重要ではありません。作業を介して、患者さんの良いところ、長所を引き出して伸ばし社会復帰後の生活にどう結び付けていくかを考えることが大事です。

失敗は成功の母です
失敗は成功の母です

気をつけなければならないのは、患者さんが作業に失敗した体験を生かせずにそのままで終わってしまわないようにすることです。患者さんはそれぞれにプライドがあり、思うようにいかない現実を認めたくないということがあります。作業療法士は、患者さんの取り組む姿勢作品の出来栄えなどを注意深く観察し、奥深くにある感情を読み解きながら、必要に応じて「きつくなかったですか」「現状はまだ完ぺきではないけれど、ちゃんと回復に向かっていますよ」などと声を掛けてフォローします。

第4章「現代型うつ病」患者が作業療法で見せる攻撃的態度

うつ病患者の病態一様ではありません。生まれ育った環境や、家族関係、仕事の内容がそれぞれ異なっていれば当然です。うつ病を発症するに至った経緯が似たような状況はあっても、全く同じということはありません。それに加えて、近年は従来型のうつ病と異なる、いわゆる「現代型うつ病」と呼ばれる新タイプの患者が比較的若い世代で多く見られるようになりました。作業療法も患者一人一人の病状や背景を把握したうえで、それぞれに適した対応が求められています

現代型うつ病は、自己愛(自分への愛着)が強く、苛立ちの矛先を他人に向ける他罰性があることなどが特徴とされています。作業療法を実施しているときも、その特徴があらわれることがあります。

ある患者さんは作品作りに失敗して「スタッフの教え方が悪い」「道具が悪い」などと怒り出しました。別のある患者さんは「誰もやり方を教えてくれない」などと不満を漏らし、作業を時間内に収めなかったり、後片付けをしなかったり、攻撃的な態度を見せるようになりました。これに対し、作業療法士や医師、看護師、臨床心理士など医療スタッフチームで対応カウンセリングで言い分を十分に聞いて感情のコントロールを図り、患者さんにも内省を促すことで、徐々に落ち着いていきました。患者側からみれば、攻撃的な態度をとっても医療スタッフとの関係性が崩れず、受け入れられたという安心感を得られたのだと考えられます。

最後に

不知火病院の「海の病棟」の作業療法プログラムの各作業はそれぞれ10数人規模のグループで行われています。いわゆる「中集団療法」で、入院期間の異なる患者が一緒に参加するため、入院初期の患者退院間近の患者の回復具合を見て、「こんなふうに症状が改善するのか」と安心感を得られるメリットがあります。不知火病院の徳永雄一郎理事長が「治癒像(ちゆぞう)の視覚化」と呼ぶ中集団療法の効果です。また、中集団療法は特に現代型うつ病の患者に有効だと考えられます。自己愛が強く、心が傷つくことを極端に嫌う傾向があるとされる現代型うつ病ですが、中集団療法は1対1のカウンセリングと違って個人に焦点が当たりにくく傷つくことを抑えられると考えられるからです。時代が大きく変化し、うつ病の病態も変化していく中で、作業療法の重要性はなおいっそう増していると考えています。

今回のまとめ

  • うつ病の作業療法は心のリハビリ

  • 手や身体を動かすことで回復を図る

  • 患者さんの長所を見つける方法の1つ

  • 失敗から目を逸らさず対処力の向上を

うつ病になってしまったら?作業療法の役割と効果のまとめ

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院 リハビリテーションセンター科長(作業療法士)龍 亨( りゅう とおる )

うつのトリセツ うつ病を知る、防ぐ、チェック、治す。うつ予防のためにできることを。