うつ病で初めての受診
まずは"相談"する気持ちで
◎精神の不調を感じたら相談する気持ちで診療を
うつ病にかかっているのではないかなと思ったとき、どこに相談すればいいのでしょうか。自分自身のことではなく、父親や母親、夫や妻、息子や娘など、ご家族のことで相談したい人もいるでしょう。うつ病の症状が疑われる人が勤めている会社の人事担当部署として相談先を探している場合もあるでしょう。あるいは、病院で診察してもらうかどうかを迷っている人もいるのではないでしょうか。精神科を受診すること自体にハードルの高さを感じている人もいるでしょう。初めての受診であれば、なおさら不安な気持ちになるのも無理はありません。そういう人たちのために、うつ病治療の専門病棟がある病院で、さまざまな相談を受け付けているソーシャルワーカー(精神保健福祉士)が実際の相談内容をもとにアドバイスします。
第1章心身の不調が2週間続いていれば受診したほうがいい
私が勤務している福岡県大牟田市の不知火病院には、うつ病治療専門のストレスケアセンター「海の病棟」があります。そのような関係もあり、当院では、年間約1200件の相談件数の約9割以上は、うつ病に関する相談が占めています。ご本人のほかに、ご家族や職場、他の医療機関、行政機関など、さまざまな所から電話などで相談や依頼が寄せられます。
中でも「受診したほうがいいのでしょうか?」という相談が多くあります。たとえば、「最近ふさぎ込んでいて、やる気がなく、仕事も休んでいる。食欲がなく、夜も眠れず、朝もなかなか起きられない」という方のご家族が「どうしたらいいんでしょうか」と尋ねてくるのです。
このような相談のときは、さまざまな症状により日常生活に支障が出始めて2週間くらい続いているようであれば、受診したほうがいいでしょうねとお答えしています。ふつう、仕事上のトラブルなどで2~3日落ち込むことはあっても、2週間も続くことはないでしょう。2週間は一つの目安ですが、つらい状況が長く続いていて、趣味などのストレス発散をしても、自分で脱することもできないということであれば、専門家の助けが必要な状態だと考えられます。
第2章「支えている人がいるんだ」と伝えることが大事
ご家族から「本人は受診したくないと言っているのですが、どうやって説得したらいいでしょうか」という相談を受けることもあります。ご家族がご本人を説得して病院まで連れてきてもらうのが一番なのですが、それがなかなか難しい場合があります。
うつ病であることを認めたくないのにうつ病にされてしまうのではないかとか、薬漬けになってしまうのではないかとか、入院することになったらもう社会復帰できなくなるのではないかなどと思い込んで、病院に行きたがらないケースがあるのです。
そうしたときは、とにかく、ご家族が心配しているということをご本人に伝えていただきたい。一人で悩まなくてもいいよ、支えている人がいるんだよということを伝えることによって、ご本人に安心感と安堵感を与えることが大事です。
また、うつ病では、頭痛やめまい、耳鳴りなど身体的な不調があらわれることが多いのですが、ご家族がご本人を病院へ連れていくときに、うつ病を治すためにと言うのではなく、頭痛やめまいなど個別の症状に着目し、日常生活でつらいことや困っていることを相談するために病院へ行きましょうと誘ってみたらどうでしょうか。
第3章初診で最低2時間、うつ病の診断には時間がかかる
「何をするのか目が離せないので、すぐに受診させてほしい」という相談もあります。自殺する恐れがあるという相談です。自殺を図るまでには段階があります。自分の存在がなくなったほうがいいのではないかと漠然と考える段階から、この世から消えたいと強く思う段階へと進み、自殺を図る具体的な方法を考える段階、その準備に入る段階、そして実行段階へと移行するのです。私たちがご相談を受けるときは、その方がどの段階にあるのか、どれほど切迫した状況にあるのかを見極めるために、その方が置かれている状況とその背景を詳しく聞く必要があります。
うつ病の症状がある方が、ご家族が知らないうちにロープを購入していたなどということになれば、対応を急がなければなりません。自殺を図る準備段階に入った可能性があるからです。このように緊急を要する場合は、精神科病棟に速やかに入院できるように案内します。
精神科の病院を初診する際は、基本的に完全予約制です。通常、受診の予約は3~4日先、長いときは1週間先や2週間先になります。そうやって迎えた診察の日。初診日当日は問診票を書いてもらった後、ソーシャルワーカーによるこれまでの経過の聞き取りがあり、臨床心理士による心理テストを受け、医師による診察を終えるまで最低でも2時間、場合によっては3時間になることもあります。どのような心身の不調があるのか話を聞き、家庭のことや仕事のことなど背景を知るために、診断にはどうしても時間がかかるということを理解していただきたいと思います。
第4章薬だけに頼らない治療・休職・復職の相談にも応じる
お電話で受け付けている相談には「病院ではどんな治療をするのですか?」「薬を飲まない治療をお願いしたいのですが」などと治療内容に関するものも数多くあります。うつ病の治療法には、薬を用いる薬物療法がありますが、それだけではありません。心理カウンセリング、認知行動療法、作業療法など薬を使わない治療法もあります。不知火病院は、薬だけに頼らず、自分自身で治っていく力をできるだけ引き出すことによって再発防止につなげる治療に力を入れています。もちろん症状に応じて、積極的に薬を使う場合があります。相談された方たちには、患者さん一人一人の症状に応じた治療をしていると説明しています。
「休職の診断書を書けますか」という相談もあります。不知火病院の場合、うつ病の患者の6割から7割は勤労者、つまり仕事をしている人たちです。うつ病と診断されて入院すれば、仕事を休まざるを得ません。休職の手続きはどうすればいいのか、病気が治った後に無事復職できるのか…。バリバリ働いてきた人ほど不安は大きいでしょう。
うつ病患者さんの場合、仕事を休んでいいのかどうか自分で判断できないという人も少なからずいらっしゃいます。こうした場合、うつ病の状態が重度であれば、医師の判断で診断書を書いて、私たちソーシャルワーカーが休職の必要性と休職手続きを職場に確認し、半ば強制的に仕事を休んで入院してもらうこともあります。
最後に
「まさか私がうつ病にかかるとは思わなかった」という人は少なくありません。うつ病だということを認めたくないという意識が働いているのかもしれません。診察を受けるかどうか、迷っているのであれば、まず相談窓口となるソーシャルワーカー(精神保健福祉士)に相談してください。また、不知火病院のホームページにも掲載しているストレスチェック(この記事の下でご案内します)で自己診断してみることをおすすめします。相談内容は受診するかどうかに限りません。病院で患者さん向けに実施している復職支援プログラムのことや、入院治療費がどのくらいかかるのかなど、さまざまな相談に応じています。遠慮なく相談してください。
今回のまとめ
2週間以上気持ちが沈むようなら注意
受診しなくても相談するだけで気分が楽に
ご家族、法人、自治体、医療機関の方でも
治療に関すること以外でもお電話を