うつ病の入院治療はどんな感じ?メリットやあれこれ
◎うつ病の入院治療で大切なのは、適切な休養をとること
うつ病にかかって、精神科の病院に入院することになったとき、本人はもちろん、家族や周囲の人も、不安な気持ちになるでしょう。うつ病という病気に対する誤解や偏見が不安を増幅しているのかもしれません。入院治療が実際にどのように行われているのか、入院治療にはどのようなメリットがあるのか、ということを少しでも知れば、そうした不安な気持ちを和らげることができるのではないでしょうか。うつ病治療が専門のストレスケア病棟に勤務する看護師が、現場での具体的事例を挙げながら入院治療について説明します。
第1章入院すること自体がストレスの回避に直結する
入院治療のメリットの一つは、入院すること自体にあります。ストレス要因から物理的に距離をとることが、ストレスを回避することに直結するのです。
うつ病の診断を受け、通院しながらの自宅療養が続くと、周囲の目が気になって外出できなくなり、自宅に引きこもってしまうケースがあります。そうなると生活リズムが不規則になって、症状を悪化させてしまいます。こうした場合、入院するだけで症状が改善に向かう例が多く見られます。
私が勤務する福岡県大牟田市の不知火病院のストレスケアセンター「海の病棟」の退院時アンケートを見ると「入院し、十分に休養することで自分を見つめる時間が生まれました」などの声がありました。入院することでストレスを回避し、心身を十分に休め、自分自身を見つめ直し、自己を知る〝気付き〟にもつながります。そして、さまざまな治療プログラムによって、うつの症状を引き起こす原因になっていた今までの行動パターン、思考パターンを変化させる効果が現れるのです。
第2章入院患者の治療期間中の過ごし方とは
入院患者の治療スケジュールについて、不知火病院の「海の病棟」を例に説明します。入院治療期間は、入院から退院まで3カ月間で組み立てられていて、休息期(1週目~3週目)から、回復期(4週目~8週目)、退院準備期(9週目~12週目)へと進みます。個々の病態によって違いはありますが、入院初期の休息期は、まず病棟生活に慣れることから始め、心と身体をとにかくゆっくり休ませて、生活リズムの改善を図ります。
1日のスケジュールを見ると、朝7時起床で、8時からが朝食です。10時からが検温の時間で、看護師が病室を回って患者一人一人に「よく眠れましたか」などと声を掛け、体調をチェックします。そして正午に昼食で、18時から夕食。18時半から入浴時間で、22時半が消灯になります。医療スタッフが24時間態勢で見守っていますから、自宅と違って不眠の相談や薬の追加にも随時応じることができます。
入院中は夜間に睡眠を十分にとることを最優先にして、日中の活動する時間と休息をとる時間のバランスをとっていきます。こうして入院生活を送るうちに、自宅で過ごしていたときと比べて、自然と規則正しい生活にリセットされるのです。
第3章「治癒像の視覚化」で回復する姿をイメージ
同じうつ病という病気で苦しむ他の患者と一緒に集団生活を送ることも、入院治療のメリットといえるでしょう。病棟には入院間もない時期の患者もいれば、退院間近の患者もいます。「うつ病は本当に治るのか」と不安を抱きながら入院してきた患者が、症状が改善していく他の患者の様子を目の当たりにできるわけです。
不知火病院の徳永雄一郎理事長は、著書『「脳疲労」社会 ストレスケア病棟からみえる現代日本』(講談社現代新書)の中で「治癒像の視覚化」と表現しています。要するに、他の入院患者が回復していく姿を通して、自分がどのように回復していくかということが具体的に見えてくるのです。そうなると希望が湧きますし、安心感を得られます。
不知火病院の「海の病棟」の病室は4人部屋、2人部屋と個室がありますが、朝食と昼食、夕食時は食堂でみんな一緒にテーブルに着きます。食事の場が、他の患者との情報交換や交流の場にもなっているのです。4人部屋では、エアコンの温度設定や物音などをめぐって、ちょっとしたトラブルはあります。しかしトラブルへの対処の仕方を身に付けることも、退院後の社会復帰に向けた治療の一環だと考えています。
第4章入院初期に心身を休めて「休養の土台」を築く
うつ病で入院する患者は、とにかく多忙だったり頑張り過ぎていたり、過剰に気を使っていたりしています。だからでしょうか。「こんなにゆっくりしていていいんですか」などと入院後の過ごし方に戸惑う人が少なくありません。そういうときは、とにかく入院初期の段階で身体と脳をしっかり休めることが大事だということを本人に伝えます。
入院初期の休息期は「休養の土台」を築く時期です。本格的な治療が始まる回復期に向けた充電期間でもあります。回復期に入ると、精神的に負荷がかかって疲れることもありますが、その前の段階で、心身をしっかり休ませることができたという〝体感〟を得ることが重要です。それが「休養の土台」づくりになると考えています。
「休養の土台」を築くことによって、休んでいても疲れるという入院前の状態から、動いていても疲れないという状態に変化させていきます。退院時アンケートの中には「睡眠の大切さを知って、身体の奥深いところにある疲れを取り除くことができました」という声もありました。「休養の土台」ができたことで得られた感想だと思います。
最後に
うつ病の治療で専門の医療機関に入院すれば、治療に専念できますし、生活リズムの改善を図ることにもつながります。しかし、うつ病の治療で入院するということは、患者さんにとって極めて非日常の出来事です。中には、それまで抑圧されて積もりに積もった感情が入院を機に怒りとなって一気に表出するケースがあります。時には看護師の対応に矛先が向けられることもあります。そうした場合でも、医療スタッフは患者さん本人と向き合い、背景を理解し、関わる努力をしなければなりません。不知火病院には「病む心、痛む心から目をそらさず、こころと言葉を注ぐこと」と書かれた看護理念があります。これからも、患者さんと向き合うことから逃げず、心のこもった対応を心掛けていきたいと思っています。
今回のまとめ
入院する事でストレスを物理的に遠ざかる
規則正しい生活のリズムが健康をもたらす
きちんと休養できた「体感」が重要
疲れる思考・行動パターンに気づく機会へ