治す

うつ病の予防・治療に
マインドフルネスを活用

悩むことは悪いことでしょうか。私たちは悩むことで成長している面も多分にあるのではないでしょうか。しかし、悩みすぎて、深みにはまり、抜け出せなくなってしまうと、脳疲労の状態が悪化し、うつ病へと進行していきます。そうならないためにはどうすればいいのでしょうか―。

マインドフルネスは近年注目されている心理療法の一つです。「気付きの瞑想」によって、悩み方を学び、ストレスを軽減し、うつ病の予防・治療につなげます。そうしたマインドフルネスの実践例を医師の立場で紹介します。

第1章善し悪しの評価をせず、今の自分をありのままに見つめる

善し悪しの評価をせず、今の自分をありのままに見つめるためのマインドフルネス(うつ病の予防・治療)
ありのままに見つめよう

英語のマインドフルネスの文字通りの意味は「心に留めること」。医療でのマインドフルネスは、自分の今現在の心と身体がどのような状態にあるかということに気付くことによって、ストレスを軽減し、心を穏やかにする治療法として用いられています。

1970年代にアメリカの分子生物学者でマサチューセッツ大学のジョン・カバット・ジン博士が、仏教の禅の思想を取り入れた心理療法として体系化しました。

マインドフルネスでは、善し悪しを判断しません。こうなったら良いとか、逆にこうなったら悪いという評価を自分の心の中でしないのです。善し悪しの評価をしてしまうと、自分の心と向き合ったときに、悪いほうばかりが気になって全体像が見えなくなります

うまくいって良かったという自分がいて、一方でうまくできていないと思う自分がいる。いろんな自分がいることに気付くということが大事なのです。「今の自分をありのままに見つめること」によって、バランスがとれるのだと考えています。

第2章"わんにゃん言葉"で心をほぐし、気功で身体をほぐして集中瞑想

マインドフルネスが日本で知られるようになったのは15年ほど前。注目を集めるようになったのは4~5年前からです。福岡県大牟田市の不知火病院では、2014年度からマインドフルネスをうつ病の治療に取り入れました。

不知火病院には、うつ病専門のストレスケア病棟「海の病棟」があり、そこの入院患者と外来患者を対象にそれぞれ1週間に1回2時間ほど、マインドフルネスを実践しています。

それぞれのグループごとに、まずは"わんにゃん言葉"で今の自分にちょっとだけ気付き、それを短い言葉で簡単に表してもらいます。どういうことかというと、参加した一人一人に今現在の心の状態、身体の状態を「ワンワン」「ニャンニャン」「ドキドキ」「ソワソワ」などの言葉で表現してもらうのです。

次に、気功を取り入れた運動で身体をほぐします。そして、集中瞑想へと移ります。 集中瞑想では、例えば何かの音であれば、その音にただひたすら耳を傾けます。頭で考えるのではなく、五感を通して感じ取るのです。

それによって、自分の意識がどこに向いているかということに気付くことになる、と同時に「何かをする」のではなく「ただそこに居る」といった状態を感覚的に経験することができるようになるのです。

第3章5~10人前後の少人数のグループで理解し合いながら実施

不知火病院でのマインドフルネスは、5人から10人前後の少人数のグループで実施しています。同じような症状で悩み、治したいと思っている人たち同士ですから、理解し合うことができますし、1人では気付きにくかったこともお互いの気付きを刺激し、気付きを深めていくことができます。それがグループで実施するメリットと言えるでしょう。

先述したように、マインドフルネスでは善し悪しを判断しません。グループに参加している人たちも「評価はしない」という意識を共有しています。だからお互いにねぎらい、思いやることができます。

一連のプログラムを通して、今までこだわってきたことが何もこだわらなくていいことなんだと気付く人もいれば、心のバランスを崩さず保つ具体的な方法を手に入れたという人もいます。

マインドフルネスは、薬物療法だけに頼らない治療法として注目されています。実施された患者さんのほとんどが何らかの症状改善につながる気付きや方法を手に入れられています。

ただし、すべてのうつ病患者の治療に有用だとまでは言えません。他の人と一緒にいること自体をつらいと感じ、集団療法が難しい人も中にはいますので、病状に合わせて行います。不知火病院でも、入院患者のうちマインドフルネスの治療を受けている人は3分の1程度です。

第4章マインドフルネスで「うつの症状を引き起こすパターン」に気付く

うつ病の予防・治療のマインドフルネスを、症状を引き起こすパターンに気付くきっかけに
症状を引き起こすパターンには身体な兆候も

うつの症状に悩む人の中には、完璧志向の強い人がいます。そういう人が、完璧じゃないとダメだという考えに支配されてしまうと、何をどうやってもできないことにしか目が行きません。

心が凝り固まると同時に身体的にも、肩に力が入り、頭痛がし始め、視界が狭くなるなどの異変が現れます。これは一つのパターンの例です。

人それぞれに、うつ状態になりやすいパターンがあります。そのパターンに気付くことができれば、身体的に何らかの兆候が現れた時点でスイッチを切り替えて症状の改善につなげることができます。

パターンに気付かないままでは、また同じ状態を繰り返しかねません。人によっては自身に起こっている兆候にさえ気づいていない人も多いのです。マインドフルネスは、うつの症状を引き起こす兆候とパターンに気付くきっかけを与えてくれます。

ここまで読んでいただきありがとうございます。私の今後の課題として、うつを引き起こすパターンについてまとめ、うつ病で苦しむ患者さんがパターンに気付く一助となるものを作れないかを考えています。

また、マインドフルネスの治療効果を数値化して評価する必要があります。マインドフルネスを一定期間実施した後のフォローアップによる効果を判定したいとも考えています。

数値化して評価することによって、マインドフルネスが具体的にどのような症状の患者さんに向いているのか、持続性があるのか、持続することがその後の心の健康に寄与しているかということもより実証的に見えてくると思うのです。

最後に

自分が、もしくは自分の家族がうつ病ではないかと疑ったときに恥ずかしいと思って隠してしまう人がいます。「うつ病にかかるような弱い人間だったのか」などと自分を責め、周囲に相談しなかったり、医療機関に行かずに悪化させてしまう人がいます。

弱いのではなく、今までの生き方が今の状況に少しだけ合わなくなって疲れてしまっただけです。様子がおかしいと思ったら、早めに専門の医療機関で受診してください。

うつ病が治りにくい病気だとか、あるいは治らない病気だと言われることがありますが、決してそうではありません。

うつ病は基本的に「治る病気」です。今回紹介したマインドフルネスなど薬物療法以外の治療法も種々あります。患者さんご自身と相性がいい手法、役に立つ手法を活用していく援助ができればと思います。

今回のまとめ

  • 自分の悪い部分に囚われると全体が見えなくなる

  • 悩みすぎると脳疲労からうつ病に

  • いろんな自分が居ることに気づくのが大事

  • マインドフルネスはそのきっかけになり得る

うつ病の予防・治療にマインドフルネスを活用

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院医師不知火病院 医師島松 まゆみ( しままつ まゆみ )

これまで医療法人親仁会米の山病院、みさき病院、野ばら診療所、医療法人芳和会菊陽病院、独立行政法人国立病院機構菊池病院に勤務し、2014年4月より医療法人社団新光会不知火病院に勤務。所属学会:日本精神神経学会、日本うつ病学会、日本ポジティブサイコロジー医学会、日本社会精神医学会、日本トラウマティック・ストレス学会、日本心身医学会。資格:精神保健指定医、日本医師会認定産業医。

福岡県大牟田市:不知火病院
(うつ病専門病棟も)