うつ病を防ぐ精神的回復力
レジリエンスを高めるには?
◎うつ病の予防・治療に関係するレジリエンス
人はさまざまなストレスにさらされています。特に働いている人は仕事に関してストレスを感じることが少なくありません。厚生労働省の労働安全衛生調査(2018年)によると、仕事で強いストレスを感じている労働者は過半数の58%に上ります。こうした中で、精神的な回復力を意味するレジリエンスという力が、うつ病の予防・治療の観点からも注目されています。うつ病治療の専門病棟がある福岡県大牟田市の不知火病院のソーシャルワーカー(精神保健福祉士)が、うつ病患者のレジリエンスについて説明します。
第1章レジリエンスはストレスをはね返し、立ち直ろうとする力
レジリエンスは、ゴムボールをギュッと握ったときに反発する力のようなもの。仕事上や金銭関係のトラブル、健康上の問題、離婚、親族との死別など、直面するさまざまな困難によって精神的ストレスがかかったときに、はね返し、立ち直ろうとする力のことを指します。
レジリエンスは心理学や精神医学の分野で1980年代ごろから注目されてきて、20年ほど前から研究が盛んになってきた比較的新しい概念です。強いストレスを受けた集団の中で精神的な不調を訴える人とそうではない人がいて、その違いがなぜ生じるのかということから研究が進められてきました。研究が重ねられるうちに、強いストレスを受けるような境遇にあっても不調になりにくい人には共通した特徴があることが分かりました。それがレジリエンスの要因として考えられるようになります。
うつ病に関しても、レジリエンスを高めることが治療や予防につながるのではないかということで注目されています。
第2章自尊心や楽観性、支える人の存在などがレジリエンスの要因
では、レジリエンスとは具体的にどういうものなのか。諸説ありますが、研究によると、その人の自尊心や楽観性、身近に支えてくれる人がいることなどがレジリエンスの要因になっているといいます。また、自身の力をどう感じ取っているのかということもレジリエンスに関係していると考えられています。
たとえば、問題を解決できる力があるのに、本人が「できない」と思えばレジリエンスの力は弱くなります。また、家族や友人、同僚、周囲の人たちからの支援は逆境に立ち向かう力になり得るのですが、これも本人が支えられていると感じ取っていなければ本来の力になりません。今ある支えや強みを自覚することが大切な方もおられるかもしれません。
第3章病院で治療を受けることがレジリエンスを高めることになる
レジリエンスは逆境であっても何とかなるという楽観性が一つの要素になっていますが、うつ病は逆に希望を持てずに何ともならないという感じ方をする病気。うつ病患者は基本的に悲観的な考えにとらわれることがありますので、うつの症状が重ければ当然のことながらレジリエンスは低くなるわけです。レジリエンスが低い状態であると、さらなる不全感が心配されます。
それでは、レジリエンスを高めるためにはどのような方法があるのか。ひと言で説明するのは難しいのですが、専門の病院で治療を受けることそのものがレジリエンスを高めることになるのではないかと考えています。薬物療法で悲観的な考え方を落ち着けることでもレジリエンスは高まります。専門家の中には、うつ病の治療自体がレジリエンスを高めることを目的にするべきだと主張する人もいます。
また、私が勤務する不知火病院では、うつ病患者の復職支援プログラムの中で、患者さんたちのレジリエンスを測定する検査を実施しています。復職支援プログラムの開始時と終了時の2回、専門の検査用紙を使って検査し、問題解決能力や協調性などレジリエンスに関係する意識の変化を測定し、検査の結果を比較すると、レジリエンスが高まっていることが確認できました。治療プログラムの過程でレジリエンスが高まる可能性があるということが分かりました。
最後に
ストレスフルな現代社会では、うつ病になるリスクが高まっています。予測もつかない自然災害などで突如として苦境に陥ることがあるかもしれません。そうしたことを考えるとき、逆境や困難に立ち向かう力=レジリエンスについて理解し、レジリエンスを高めるように意識することが自らの健康を保ち、自分らしく生きるためにきっと役立つと思います。
今回のまとめ
レジリエンスとは精神的な回復力
レジリエンスがストレスを跳ね返す
自尊心や楽観性がレジリエンスを高める
自分を信じて自分らしく生きましょう