防ぐ

ストレス発散でうつ病予防
日常と余暇のバランスを

◎うつ病予防のためのストレス対処法について

うつ病は、ストレスにうまく対処できずに脳に疲労が蓄積することによって引き起こされると考えられています。どのようなことをストレスと感じるかは人それぞれですし、それに応じて、さまざまな対処法が考えられます。今回は、福岡県大牟田市の不知火病院にうつ病で入院している患者を担当している作業療法士が、現場での実例を紹介しながら、ストレスへの対処法について説明します。

第1章イライラしたときは上手に外に吐き出してストレスの軽減を

あるとき、見るからに不機嫌な様子の患者さんがいました。「気分がすぐれないんですか?」と尋ねると、その人は「イライラはしていません」と答えるのですが、明らかに曇った表情。心のうちに不満をため込んでいることが分かりました。「たまったものを外に吐き出したらいいんじゃないでしょうか」と声を掛けていると、やがて自分の気持ちを認めて、「職場で上司の対応に腹を立てていたのですが、実はその上司に何も言えない自分自身にイライラしていたのかもしれません」と話してくれました。

溜め込み過ぎはよくありません
溜め込み過ぎはよくありません

だれでも、不機嫌になったり、他人の悪口を言ったりするのは良くないことだという気持ちはあるでしょう。その人の場合、負の感情を表に出すまいと必要以上に抑制していたことが強いストレスになったと思われます。これはうつ病患者に限った話ではありません。イライラしても、その感情を押さえ込まずに上手に吐き出すことができるようになれば、ストレスを軽減することにつながるのではないでしょうか。

第2章凝り固まっているような人も大量に汗を流してすっきり

うつ病の治療で行われる作業療法は、陶芸などの活動に取り組むことを通して、患者さんに自分自身と向き合うことを促し、ストレスへの対処法を身に付けてもらうことを目的としています。不知火病院のうつ病治療専門のストレスケアセンター「海の病棟」で行われている作業療法は、陶芸のほかに手芸(革細工か刺し子)、音楽療法、スポーツ(3人1チームで対戦するファミリーバドミントン)など。入院直後の休息期はとにかく頭も体も使わずに休ませることが先決なので、作業療法は入院後2~3週を過ぎたころから始めます。

作業療法を通じて、患者さん一人一人の症状の程度や変化が見えてきます。たとえばスポーツのときにこんなことがありました。見るからに凝り固まっているような雰囲気の男性だったのですが、準備運動のときから、大量の汗をダラダラと流しているんです。大丈夫かなと心配したのですが、本人は汗をかいた後に「何かが外に出ていった感じがして、すっきりしました」と表情も柔らかくなっていきました。この患者さんの例に限らず、長い間自宅療養で休んでいた人が身体を動かすことで調子が良くなっていくということがあります。

第3章ストレスの多いイベントの企画運営で改善がみられた例も

作業療法には院外活動と呼ばれるものもあります。入院患者の中で比較的元気になってきた人を対象に7~15人程度が参加して、近郊の観光地などへ日帰りの小旅行に出掛けたり、季節の行事を催したりしています。治療の一環ですから、単なるレクリエーションではありません。集団行動では周囲の人の迷惑にならないようにそれなりに精神的なストレスがかかるのですが、そのストレスにどう対処するかがこの作業療法のポイントです。

あるとき、患者さんたちに「自然に親しむイベントを企画してください」と依頼したことがありました。イベントの中身は白紙の状態。企画から運営まですべてを患者さんたちに任せました。ところが企画は出来上がったのに人集めが一向に進まないのです。企画を担当した人が「私はちゃんとしているのに、他の人はなぜできないのか」と怒り出しました。

企画を担当したのは、日頃から懸命になり過ぎる傾向がある人でした。ほかの患者さんも含めてみんなで話し合う中で、「今度からみんなで一緒にやりましょう」ということで収まりました。退院後の社会生活の中でも起こり得るようなストレスの多い体験を通じて、一人で無理をしないこと人に頼ることを体験し、改善がみられた例だといえるでしょう。

第4章主活動と余暇のバランスをとって生活のリズムを整えよう

うつ病を予防するためには、その人のメインになる活動(主活動)と余暇とのバランスをとって生活のリズムを整える必要があると考えています。主活動とは、会社勤めの人であれば仕事、専業主婦であれば家事、学生であれば勉強すること。そして余暇は主活動以外に自由に使える時間を意味します。

赤ちゃんのころは主活動と余暇に区別がありません。泣くこと、寝ること、おっぱいを飲むこと、すべてが赤ちゃんにとっては主活動であり余暇でもあるわけです。それが、だんだん大きくなるにつれて主活動の時間は仕事、余暇の時間は遊びというように分かれてきます。ところが、主活動で抱えたストレスが強すぎると、余暇でうまくリフレッシュできずにバランスを崩してうつの症状を引き起こしたり、症状を悪化させたりすることにつながりかねません。リフレッシュするためには、上手にガス抜きをする必要があります。ガス抜きには、赤ちゃんの頃の遊び(原初的遊び)の要素を含むことが効果的であるといわれています。身体を大きくのびのびと動かすなど、五感に働きかけ、心地良い刺激を伴うものが良いでしょう。

疲れたぶんだけ休息が必要です
疲れたぶんだけ休息が必要です

たとえば普段デスクワークを中心に仕事をしている人であれば、余暇の時間はスマホのゲームなどではなく、スポーツなど身体を使う活動リズムを整えるのがいいでしょう。全般的に言えるのは、自然の中を歩いて花の匂いをかいだり、太陽の光を浴びたり、風に吹かれたりするのがいいでしょう。五感を刺激することによってストレスを緩和する効果が期待できます。

最後に

うつ病予防のために、主活動でどのようなストレスがかかっているのかをまず自覚してください。そのうえで、自分に合った余暇の過ごし方ストレス発散法を見つけましょう。なお、ストレス発散法は一つに限ると、それができなかったときにストレスをため込んでしまいますから、複数持つことをお勧めします。窓を開けて風にあたり、太陽の光を浴びてコーヒーをゆっくり飲んでみるとか、手軽にできるものでいいのです。通勤途中に少し遠回りして散歩などいかがでしょう。ただし、やり過ぎには注意してください。うつの症状改善のためにジョギングを始めた人が熱中し過ぎて「次はフルマラソンに挑戦だ」などと目標を立てると、それが余暇ではなく主活動になって、新たなストレス要因になってしまいます。過ぎたるはなお及ばざるがごとし、です。

今回のまとめ

  • イライラした分だけ発散を

  • 手や体を動かして心をほぐす

  • 余暇を使って上手にガス抜きを

  • 自分にあった発散方法を探しましょう

ストレス発散でうつ病予防日常と余暇のバランスを

書いたヒト福岡県大牟田市の医療法人社団新光会リハビリテーションセンター主任(作業療法士)山本久美子( やまもと くみこ )

山本久美子(やまもと くみこ)
うつのトリセツ うつ病を知る、防ぐ、チェック、治す。うつ予防のためにできることを。