防ぐ

話しを"聞く"ことの大切さ
うつ病の自殺を防ぐには

警察庁の統計によると、国内で年間2万人前後の人たちが自殺しています。そして、自らの命を絶たれた人たちのなかで、うつ病が原因とみられるケースが実に約4割を占めるという報告があります。こうした統計からみても、うつ病患者、あるいはうつの症状がある人の自殺を防ぐことがいかに重要であるかが分かります。さて、うつの症状がある人たちが自殺しようとするときには、どのような兆候がみられるのでしょうか。自殺の予兆がみられる人に対してどのように対応したらいいのでしょうか。うつ病治療の専門病棟がある不知火病院(福岡県大牟田市)のベテラン看護師が説明します。

第1章うつ状態の人が自ら命を絶とうとするときの兆候とは?

うつ状態になると、ふさぎ込んだり、引きこもるようになったり、何に対しても興味を失ったり、行動が投げやりになったりするような変化があらわれます。急に怒りだしたり、逆に抑うつ状態になったり、気分が変わりやすい傾向にもなります。急に酒量が増えるとか、極端に食欲がなくなり体重が減少するようなことも起こります。

突然家出や失踪をする」「自殺をほのめかす」「遺書を用意する」といった行動がみられるようになると極めて危険です。「自殺の手段(ロープなど)を用意する」「自殺未遂をする」という段階になると、もはや黄信号というより赤信号といえるでしょう。

すべてのうつ病患者に自殺の恐れがあるわけではありません。しかし、不知火病院の外来患者を対象にした調査では、約65%が死にたい」「消えてなくなりたい」という気持ちを持っていることが分かりました。うつ病の診断基準の一つに「死について繰り返し考える」という項目があるように、症状が重くなるにつれて、精神的な視野が狭くなり、思考停止状態になって、死ぬことしか考えられなくなるようになります。押しとどめるものがなければ、「死」と「生」の間で揺れていた振り子が、「死」の方に一気に振れてしまいかねないのです。

第2章相手の気持ちを受け止め、寄り添ってあげることが必要

あるとき、外来で診察に来られた50代の女性も「死」を意識しておられました。肩を落としていたその女性に声を掛けると「死にたい」と消え入りそうな声で話されました。

「いつごろからそのような気持ちになりましたか」などと女性の話に耳を傾け、心配していることを伝え、自殺が視野にあるのかということも尋ねました。そうすると女性は話し終えた後、「本当は死にたくない。けれども、死にたいほどつらい気持ちになったんです。話を聞いてもらえて本当によかったです」と表情が少し穏やかになられました。

まずは、相手の気持ちを受け止めることがとても大事です。本人の安全を確保することが私たち医療スタッフの役割です。「すぐに死にそうなことを言っている人ほど死なないものだ」などといわれることがありますが、決してそんなことはありません。問いかけに対して無言であれば、こちらもしばらくは無言のまま、本人が話し始めるまで待ちます事

あなたの思うように話して下さい
あなたの思うように話して下さい

言っておられることを否定したり、こちらの考えや意見を押しつけたりすることがないように、その人がどうして「死にたい」と思うのか、その思いに寄り添うことが大切です。

第3章いつでも相談に応じてもらえる安心感と信頼関係が大事

外来の特に死にたい気持ちがある患者さんには、「何かあったらいつでも病院に電話してください」と声を掛けます。実際、夜中に「死にたくなったから」と電話をかけてこられる患者さんがおられます。そのようなときは、夜勤の病棟のスタッフが応対して話に耳を傾け、翌朝に外来看護師や医師に内容を報告します。緊急の場合もありますが、病院に電話をかけて話を聞いてもらえるだけで落ち着かれる患者さんもおられます。いつでも相談に応じてもらえるという安心感。それが自殺予防にもつながるのではないかと考えています。

私達はいつもここにいます
私達はいつもここにいます

入院中の患者さんに対して、私たち看護師は、気分の状態や食事の量、味覚の状態、また十分に眠れているのかなどを確認します。脈拍を1分間測定したり、血圧も左と右の両腕で測定したりします。患者さんの皮膚の湿潤など、ストレス反応の観察もします。それは健康管理上のことでもあり患者さんとの信頼関係を築くためでもあります。私はあなたのことを理解していますよ、心配していますよ、というメッセージが伝わるように対応しています。信用してもらえなければ、心を開いてもらえませんし、大事な変化を見逃してしまうかもしれません。患者さん本人との信頼関係を築くことは、自殺予防の観点からも重要なことだと考えています。

第4章うつ病患者の自殺事例を分析・検証し、対策に生かす

不知火病院には自殺予防対策委員会という内部組織があります。患者さんが不幸にも自ら命を絶たれた事例を分析・検証し、対策を検討するために設けられた組織です。

現在のメンバーは医師2人と看護師が看護部長を筆頭に8人、精神保健福祉士1人、臨床心理士1人、作業療法士1人を合わせて13人で構成。毎月1回、定期的に会議を開き、臨時で開催することもあります。

うつ病の、患者さんが自殺されると、その、患者さんのご家族はもちろん、、関わった医療スタッフも、非常につらい気持ちになります。自殺された患者さんがどういう症状だったのか、命を絶たれる直前に、何らかのサインがあったのではないか、治療のいずれかの過程で自殺を食い止める手立てがなかったのかといったことについて、、情報を持ち寄り、意見を交わし、、対策を練ります。また、不知火病院では、医療スタッフ全員を対象にした院内教育の会議を年に2回開催していて、自殺予防対策委員会で、話し合った結果を、各部署で生かすようにしています。

最後に

うつの症状で自殺した人は、命を絶つ前にそのサインを発しているといわれています。そうしたことから考えても、不調や悩み、そして自殺の予兆に最初に気づくことができるのは、最も身近な存在の家族の方々だと思います。食欲がなかったり、いらいらしたり、疲れやすかったり、休日にどこにも出掛けずにごろごろしていたり、いつもと様子が違うなと思ったら、寄り添い、見守り、丁寧に話を聞いてあげてください。家族同士だと、きつい言葉になりがちですが、決して叱ったり詰問調になったりしないように。「ひとりで悩まないで」「つらそうに見えるけれど、何かあったの?」とか、「好きな物も食べていないけれど、胃の調子が悪いの?」などと優しい言葉で、寄り添う気持ちで語り掛けてください。ご家族のかけがえのない命を守るためにも、早めに専門の医療機関を受診して、入院して治療を受けられることをお勧めします。

今回のまとめ

  • うつ病が原因と考えられる自殺は4割とも

  • ヘルプの"サイン"に気づけるのは身近な人

  • 寄り添って話を"聞く"ことが何より大切

  • 小さな変化に気づいたら優しく声を掛けて

話しを聞くことの大切さうつ病による自殺を防ぐにはのまとめ

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院 看護副部長杉野 美幸( すぎの みゆき )