防ぐ

食事とうつ病予防

◎うつ病の予防につながる食事とは

食事をしても味がしない、大好物だった食べ物なのに箸が進まない…。こうした変調が、内臓の疾患に起因するものではなくて、うつ病の兆候を示すサインになっていることがあります。さて、うつ病と食生活にはどのような関係があるのでしょうか。うつ病の予防につながる食べ物があるとすれば、それはどんな食べ物なのでしょうか。普段の食生活でどのようなことに注意すればいいのでしょうか。うつ病患者の入院病棟がある病院の管理栄養士が、栄養指導や病院食の献立作りに携わっている立場で、実例を紹介しながら説明します。

第1章うつの症状が重くなると食事が楽しくなくなる

私が勤務する福岡県大牟田市の不知火病院には、うつ病治療専門のストレスケアセンター「海の病棟」があります。この「海の病棟」の入院患者は食事のとき、2階の病室から1階の食堂に降りてきて、みんな一緒にテーブルに着きます。食堂は開放的で、庭に面したガラス戸から明るい陽光が差し込みます。

朝食はバイキング形式※1。主食はご飯かパンで、おかずに肉、魚、卵料理、野菜のお浸し、大根おろし、煮豆などの豆類、納豆、みそ汁、スープ、飲み物(牛乳や野菜ジュースなどから1種類選ぶ)、果物…。バイキング形式ですから、好きなものを自由に選んで食べることができます。ただし、病院の食事ですから、和食の場合と洋食の場合それぞれの適正量を把握できるように見本を置いて、栄養価を掲示しています。

ところが、「海の病棟」に入院して間もない頃の患者さんは食欲のない人が少なくありません。「好きなものを食べてください」と言われても、食欲が湧いてこないというのです。うつの症状が重くなると食事が楽しくなくなるといわれていますが、実際その通り。そうした患者さんも治療が進み、回復に向かうにつれて、次第に食欲が出てきます。

食欲は心身の健康と直結しています
食欲は心身の健康と直結しています
※1 朝食はバイキング形式
不知火病院の海の病棟の朝食バイキングは、感染症対策のため実施出来ない場合があります。

第2章血糖値を乱高下させず、タンパク質を摂取する

うつ病は、脳が過度に疲労することから起きるとされています。「何も食べる気がしない」という状態も、脳の疲労が引き起こしているといえます。それでは、脳の疲労を取り除き、脳細胞を働かせるためにはどんな食べ物がいいのでしょうか

脳細胞を働かせるためには、糖質が必要です。しかし食後に血糖値が急激に上昇して、その後急激に落ちて低血糖状態になると、「憂鬱な気分になる」とか、「眠くて頭がぼーっとする」とか、うつ状態でよく見られる症状に陥ることがあるのです。したがって、うつ病の予防のため、あるいはうつの症状改善のためには、血糖値を乱高下させない食事、血糖値が緩やかに上昇して緩やかに下降する食事が望ましいと言えます。具体的にどのような食べ物かというと、白米よりは雑穀米や玄米、精製された食パンよりは全粒粉パン、ジャガイモよりはサツマイモの方が血糖値の変化は緩やかです。

また、脳内の神経伝達物質を生成するタンパク質を摂取することも大事。牛乳やチーズ、豆類、納豆、豆腐はタンパク質と脂肪分、炭水化物のバランスが良く、肉類では鶏肉が脂肪分が比較的少なく、効率よくタンパク質を摂取できます。

第3章必要な栄養素を摂取できるバランスの良い食事を

「海の病棟」で入院患者に提供している病院食について、もう少し紹介します。朝食がバイキング形式だという説明をしましたが、昼食と夕食はそうではなく、1人前ずつ用意されます。ある一日の献立を見ると、昼食は主食のご飯に主菜が魚の磯辺揚げで、副菜に豆腐サラダ、きのこの澄まし汁、季節の果物。夕食はご飯と主菜が牛肉の柳川煮で、副菜に野菜のごま酢和え、ジャガイモと鶏ひき肉のそぼろ煮でした。

糖質にタンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など必要な栄養素がバランスよく摂取できるように考えたメニューです。この日の夕食にみそ汁などの汁物が付いていないのは、1日に摂取する塩分量が多すぎないようにするためです。

第4章「味わいながら食べる」ことを習慣づける

うつ病の予防や症状改善のために、どのような食べ方が望ましいかということも考えてみましょう。「海の病棟」の入院患者向けに定期的に開催している説明会で、私は「食事の習慣を変えていきましょう」と呼び掛けています。口に入れる前に食べ物をよく見て香りを味わう、一気に食べずに少量ずつ食べ物を口に運ぶ、一品ずつ口に入れて味を確認しながら食べる…。そうやって、「味わいながら食べる」ことを習慣づけるのです。こうした食べ方が消化のために良いことは言うまでもありません。それだけでなく、ストレスに対する耐性を養うことにつながると考えています。

ゆっくり一口ずつ
ゆっくり一口ずつ

複数のおかずがあるときに、どの順番で食べるかということも大事糖尿病患者の場合は血糖値の急激な上昇を抑えるために野菜を先に食べるほうがいいのですが、うつ病患者の場合は先に肉や魚などを食べるように勧めます。うつの症状の人はタンパク質をちゃんと摂らなければなりませんが、食欲不振で小食になりがち。他の食べ物でおなかいっぱいになる前に肉や魚などでタンパク質を摂取することを優先するのです。

「食事をするとき、、やってはいけない3つの習慣」があります。それは、①1人で、スマホを見ながら食事すること②1人で、パソコンの画面を見ながら食事すること③1人で、オフィスの机の上で食事すること―の3つ。こんな食べ方をしていたら「味わいながら食べる」ことになりません。これは入院患者向けの話ではありません。、仕事が忙しくて、ついついそんな食べ方をしているという人はいませんか。うつ病予防のためにも、自分の食習慣を見直してみましょう。

最後に

入院して間もない頃に食欲がまったくなかった患者さんも、治療が進むにつれて次第に食事がのどを通るようになってきます。「パン1個だけでもいいから食べてくださいね」と声を掛けていた患者さんが退院される頃になって、「ほら、残さずに食べられるようになりましたよ」と言われたことがあります。私たちスタッフもうれしいし、やりがいを感じます。もちろん、うつ病は食事だけが関係しているわけではありませんし、食生活さえ改善すればうつ病が完治するというものではありません。うつ病の予防、うつの症状改善のために、皆さんが日々の食事を味わって楽しめるようにサポートしていきたいと思っています。

今回のまとめ

  • 食事が美味しくないと感じたら要注意

  • 血糖値が乱高下するようなメニューは控える

  • 「◯◯しながら」の食事習慣を見直す

  • 一口ずつ味わい食事を楽しむ事が重要

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院 栄養科長・管理栄養士坂井 純子( さかい じゅんこ )