防ぐ

「看護のプロ」の視点から見る
うつ病の予防と再発防止

うつ病の予防法というものはあるのでしょうか。一度治ったうつ病が再発したときにはどう対処したらいいのでしょうか。あるいは、うつの症状が現れたとき、その人の家族や職場の同僚など周囲の人はどのように接したらいいのでしょうか――。

うつ病治療専門のストレスケア病棟には専門の医師のほか、看護師や臨床心理士、作業療法士などの医療スタッフがいます。今回は医師ではなく、ベテラン看護師が「看護のプロ」の立場と目線で、実体験を踏まえてアドバイスを記します。

第1章自分自身のキャパを知ることが予防・再発防止に

さて、うつ病の予防のために、または再発防止のために何が最も重要なのでしょうか。結論から言えば、自分自身のことをよく知ることではないかと考えています。

この世の中、100の仕事ができる人がいれば、50くらいの仕事でいっぱいいっぱいの人もいます。人それぞれにキャパシティ(許容量)があります。100が限界なのに120の仕事をやり続けるとオーバーワークになります。オーバーワークに気付かないままでいると、ストレスから脳疲労を引き起こしてしまうのです。

100の仕事を今日は80で留めておこうとか、休養を取って50くらいで収めておこうとか、加減ができれば、オーバーワークをしてもリセットできるようになるでしょう。ところが、うつの症状がある人は、そのコントロールがうまくできずに、とことんまでやりすぎたり、逆に何もできなくなったりする傾向があります。

自分の許容量を知るのが大事です
自分の許容量を知るのが大事です

まずは、自分自身のキャパを知ることが大事です。本人がオーバーワークに気付いていない場合、職場や家庭で、周囲の人にも分かってもらって手助けしてもらう必要もあるでしょう。「いつもと違うね」と気付いてくれる人がいることが、うつ病の予防や再発防止につながると思います。

第2章うつ病が再発しても決してネガティブに捉えないように

うつ病が再発し、病院に再入院することになったとき、大半の人は気持ちが落ち込んでいます。二度と入院しないと思って退院したのに再び病院に帰ってきたということで、自分を責めているのです。「すみません。また来てしまいました」などと消え入るような声で、病院スタッフに頭を下げられるのです。

再入院したとしても、決してネガティブに捉えないようにしてください。1回目の入院時にできなかった課題があれば、再発時にその課題に取り組むことができると考えればいいのです。実際、1回目よりも2回目の方が患者さんと病院スタッフとの関係性もできているし、即座にその人に合った治療に取り組むことができます。私も再入院で落ち込んでいる患者さんに対して「全然悪くないですよ。またしっかりやりましょうね」と声を掛けてきました。

第3章うつの症状の人が攻撃的になったときの対処法とは

私が勤務する福岡県大牟田市の不知火病院には、うつ病専門のストレスケア病棟「海の病棟」があります。いろんな患者さんを見てきて、看護師の果たすべき役割について考えさせられることがありました。患者さんが時に見せる「攻撃性」にどう対処すればいいのかという問題もその一つです。

治療過程の中でそれまで抑圧していたさまざまな感情を「攻撃性」として表出される方の対応を経験しました。その多くは、24時間患者さんを見守る側にいる看護師に向けて表出される傾向があります。これは家族に置き換えると、母親や妻に相当すると考えられます。看護師も人間ですから、「攻撃性」を向けられると嫌な気持ちや怖くて不安な気持ちを抱きます。これも母親と妻にも共通する感情でしょう。しかし、「攻撃性」として表出される感情には「不安」「孤独」「悲哀」「絶望」など、病気になった要因でもある負の感情が隠されています。

その意味を私たちは理解していき治療につなげていきます。表出できたことを評価して「攻撃性」を受け入れます。この攻撃性を受け入れるという行程は家族では困難な場合が多いと思います。なぜなら、「攻撃性」を理解するという知識もなく、発言や行動に対してネガティブな反応が起こります。この反応が壁となり、本人の真意を知ることから遠ざかってしまうからです。家族に向けて「攻撃性」が表出して対応に困った場合は、精神科・心療内科などに相談することです。ご家族だけでも相談することは可能です。ご家族、ご本人共にお悩みがある場合は、一人で抱え込まずぜひご相談してみてください。

第4章患者の多面的な姿を統合して見せる看護師の役割

うつ病の入院患者さんはいろんな顔を持っています。患者さんの一面だけを見ていたら治療はうまくいかないし、病気はよくならない。そうした観点から、患者さんの多面的な姿を統合して見るための要(かなめ)の役割を看護師が担っていると思います。

沢山の表情を持っているのが普通です
沢山の表情を持っているのが普通です

うつの症状を見せている人が家族に対して攻撃的になったときにどのように対処したらいいかと尋ねられると、これに対する回答も非常に難しい。家族の場合、医療機関と違って、感情がどうしても先に立ってしまって、冷静に客観的に理解するのが難しく、時間がかかってしまうからです。例えば食事の量が減った、表情が暗いなど夫に何か異常があると感じたら、妻が情報を病院に伝えるとか、とにかく自分一人で何とか対応しようとしないことが肝心です。

最後にうつ病の予防、再発防止について

まずは自分自身のキャパシティー(許容量)がどの程度かを見極めるようにしましょう。キャパを超え、脳疲労を引き起こすようなオーバーワークにならないようコントロールできれば、うつ病の予防、再発防止につながるでしょう。ただし、うつ病を再発し、再入院となっても、決してネガティブにならないように。課題を解決するチャンスに恵まれたと前向きに捉えて、病気と向き合いましょう。

今回のまとめ

  • うつ予防、再発防止は自分を知ることから

  • ストレスをストレスだと自覚することが重要

  • 自分のキャパシティー(許容量)を見極める

  • 溢れた感情が攻撃性につながることも

  • ひとりで抱え込まず、まずは専門家に相談

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院 看護部長原 恭美( はら きょうみ )