知る

うつ病での入院・休職
経済的支援は受けられる?

◎うつ病の入院費用と、支援制度やその手続きについて

うつ病で入院することになったら、お金はどのくらいかかるのでしょうか仕事を休むことになれば、収入が減ってしまうのではないかという心配も出てくるでしょう。入院費用や病気休職に関係する制度や手続きについて、うつ病治療の専門病棟がある福岡県大牟田市の不知火病院で患者や家族の相談に応じているソーシャルワーカー(精神保健福祉士)が説明します。

第1章入院費用は高額療養費制度で自己負担上限額が定められている

入院費用がいくらになるのかというと、その人の年齢や所得によって大きく異なります。高額療養費制度によって、年齢や所得水準に応じて医療費の自己負担上限額が定められていて、その上限額を超えた分が公的医療保険から支給されるのです。

年齢は70歳未満の人と、70歳以上75歳未満の人、75歳以上の後期高齢者の3つに区分されます。所得水準については、たとえば70歳未満では年収約1160万円以上から住民税非課税の場合まで5つのケースごとに医療費の自己負担上限額が細かく設定されています。

仮に、年齢が70歳未満、年収が370万円~770万円の人で、同月(1日から月末まで)の医療費が100万円かかったとします。保険診療で3割の自己負担であれば、30万円を支払わなければなりません。それが高額療養費を申請すると、この年齢と所得水準の場合、自己負担上限額は8万100円+(100万円-26万7000円)×1%の計算式で算出される8万7430円で、これ以上は負担する必要がありません。30万円との差額の21万2570円が高額療養費として公的医療保険から補てんされるのです。

ただし、入院中の食事代や、個室を選んだ場合などに生じるいわゆる差額ベッド代(特別療養環境室料)は高額療養費の対象外です。したがって、入院にかかる費用は、医療費の自己負担上限額と食事代、場合によって差額ベッド代を合計した金額ということになります。

第2章うつ病での1ヶ月の入院費用(海の病棟)はどのくらい?

私が勤める不知火病院には、うつ病治療専門の治療病棟「ストレスケアセンター海の病棟」があります。さて「海の病棟」に入院すると、費用はどの程度かかるのでしょう?ホームページの「料金シミュレーター」では、年齢と、所得区分から、1カ月分の入院費用を簡単に試算できます。

入院中の食事代は基本的にどの医療機関でも同じで1食につき460円、1カ月で4万1400円(住民税非課税など低所得の人はこれより安くなります)。「海の病棟」の病室はいずれも差額ベッド代が発生し、1人1日5000円の4人部屋と、1日8000円の個室、1日1万円の個室の3種類の中から選ぶことができます。

「海の病棟 料金シミュレーター」で試算すると、70歳未満で、基礎控除後の年間総所得金額が210万円以下の場合、4人部屋での1カ月分の概算入院費は合計24万9000円(医療費5万7600円、差額ベッド代15万円、食事代4万1400円)。70歳未満で総所得金額が901万円超、1日1万円の個室を利用した場合は1カ月分で合計56万1400円(医療費22万円、差額ベッド代30万円、食事代4万1400円)となります。

お気軽にご相談ください
お気軽にご相談ください

第3章無給で休職した場合、傷病手当金で給料の3分の2が支給される

会社員にしろ、公務員にしろ、自営業者にしろ、うつ病で入院することになれば、入院期間中は原則的に仕事を休まざるを得なくなります。基本的な入院期間は3カ月。その間の収入がどうなるのかということは本人にとって、あるいは家族にとっても、大きな関心事であり、心配事でしょう。

民間企業の場合は就業規則で、国家公務員の場合は人事院規則で、地方公務員の場合は各自治体の条例で、給与・手当、休暇などに関する規定が定められています。有給休暇が残っていれば、それを充てることも可能ですが、残っていない場合や不足する場合などもあり得ると思います。

病気のあなたを支援をしてくれる制度もあります
病気のあなたを支援をしてくれる制度もあります

会社員の方が無給で休職した場合は、健康保険からの傷病手当金という支援制度があります。業務と関係のない病気やけがで連続3日間を含む4日以上仕事に就けず、なおかつ事業主から十分な報酬が受けられないことなどを条件に、給料(標準報酬月額の平均額)の3分の2が支給されます。大手企業であれば健康保険組合、中小企業は全国健康保険協会(協会けんぽ)の窓口に支給を申請して、認められれば支給開始日から最長1年6カ月の期間、手当金が支給されます。

ただし、この傷病手当金の制度は国民健康保険にはありません(一部の国保組合には条件付きで支給されるものもあります)。このため、自営業やフリーランス健康保険に加入していないパート勤務の人などは残念ながら対象外です。公務員の方の場合は、病気休暇病気休職という制度があり、傷病手当金を申請するまでに段階的な措置があります。会社員の方に比べると保障面ではやや手厚くなっている場合が多いです。

第4章職場が原因となったうつ病で労災が認められるケースがある

傷病手当金が「仕事と無関係な」理由で認められることに対し、「仕事が原因」という理由で休職した場合はどうなるのでしょうか。

うつ病で労災(労働災害)が認められるケースがあります。職場のパワハラが問題になったり、過労死がニュースになったりしたこともあって、患者さんやご家族から「労災の対象になるのか」と聞かれることもあります。ただし、厚生労働省の資料「精神障害の労災補償状況」(平成30年度)によると、うつ病を含む精神障害で労災申請をした数は年間1820件で、このうち支給決定件数(うつ病で労災認定が下りた数)が465件。支給決定件数が毎年増えているわけではありません。ほぼ横ばいの状態が続いています。

労災の場合、大ざっぱにいえば「業務遂行性」(仕事中であったかどうか)と「業務起因性」(仕事が原因かどうか)という判断基準があります。特に後者の「業務起因性」に関しては、いくらご本人・ご家族が「職場のパワハラが原因」と主張しても、それが客観的に認められるかどうかは別の話になります。残念ながら病院(主治医)には認定の決定権が無いため、患者さんや家族から相談があれば、手続きについて説明し、必要に応じて労働基準監督署に提出する医師の診断書や書類を準備します。病院側は診断書に意見を添え、最終的に労働基準監督署が認定の可否を行います。

また、うつ病に限りませんが、治療を長期にわたって継続しなければならない疾病を対象に、医療費の自己負担額を軽減する「自立支援医療制度」という公費負担医療制度もあります。ただし、この制度は外来通院を対象にしていて、入院は対象外。ですから、この制度は入院した人が退院後に通院してくる場合などに適用されることになります。

最後に

精神科を初めて受診するうつ病の患者さんの中には、見た目よりも意外に症状が重くて、そのまま仕事を休まなければならないというケースがあります。そうなると、必要な手続きを慌てて進めなければなりません。うつの症状が進行して、入院を勧められるような段階だと、患者さん本人が合理的に説明をすることも、理解することも困難になる場合があります。そうなると、病院側が本人の代わりに職場とやり取りをしたり、場合によっては手続きを代行したりすることもあります。医療費や健康保険に関する制度や手続きは複雑ですが、患者さんやご家族にできる限り、わかりやすくご理解いただけるように説明することを心掛けています。

今回のまとめ

  • 「高額療養費制度」で負担の軽減を

  • 年齢や所得に応じて入院費は異なる

  • 傷病手当が無給期間の生活を支援

  • 労災が認められる場合もありうる

うつ病での入院・休職、経済的支援は受けられる?のまとめ

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院地域連携室主任(精神保健福祉士・社会福祉士)荒木 健介( あらき けんすけ )