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うつ病と大人の発達障害
気をつけるべきことは何?

◎うつ病の原因となる「大人の発達障害」について

うつ病の症状があって病院を受診すると、発達障害がそもそもの原因になっていることが分かるケースがあります。発達障害は子どもの頃に症状が確認されることが多いのですが、青年期や成人になって発達障害と診断される「大人の発達障害」も決して珍しくありません。さて、大人の発達障害とはどういうもので、うつ病との関連でどのようなことに気を付けなければならないのでしょうか。うつ病治療専門のストレスケア病棟がある不知火病院(福岡県大牟田市)の精神科医が解説します。

第1章発達障害は先天的で、大人になって診断されることも

発達障害の主なものは、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つ。発達障害の人は、考え方や感じ方に特性があるために、学校や会社など一般社会になじみにくいということが起こります。

自閉症スペクトラム障害は、表情や言葉から相手の気持ちを読み取れなかったり興味の範囲が狭く特定のものにこだわったり、単調な行動を繰り返したり、音や光に敏感だったりする傾向が強いとされています。また、注意欠如・多動性障害は「忘れ物が多く、片付けが苦手」「じっと座っていられない」「がまんすることが苦手で衝動買いをしたりする」などの行動に特徴がみられます。学習障害は知能に特に問題がないのに「読む」「書く」「計算する」のいずれか一つ以上のことがうまくできないというものです。

いずれも先天的な個性や特性というべきもので、本人に悪気があるわけではなく、親の育て方に問題があるわけでもありません。多くの場合、子どもの頃に発達障害であることが分かりますが、障害の程度が軽かったり、問題行動が目立たなかったりして、大人になってから発達障害と診断されることがあります。こうした「大人の発達障害」は大人になって発症したのではなく、基本的に幼少期から症状が続いていると考えられます。

第2章発達障害の影響で二次的にうつ病を発症することがある

発達障害の人は、子どもの頃から叱られたり、責められたり、周囲からの理解を得られずに受け入れてもらえない場合が多く、孤立してしまいがちです。そのような経験を重ねていくと、自分に対して否定的な評価しかできなくなり、うつうつとした気分に陥ったり、不安が強くなったりします。

発達障害の特性によって、相手の表情を読み取れなかったり、忘れ物が多かったりすることで、対人関係や仕事でたびたび失敗してしまい、うまくいかないことで、うつの症状が悪化していく―。こうした悪循環によって生じるのが「発達障害の二次障害としてのうつ病」です。

決して自分を否定しないで
決して自分を否定しないで

発達障害の診断を受けた人がうつ病を発症すれば、うつ病の原因に発達障害が関係していることがすぐに推測できるでしょう。しかし、発達障害の診断を受けたことがなく、発達障害だということが分からないまま大人になった人は、うつ病を患って初めて発達障害の影響を知ることになるのです。

ある研究報告によると、自閉症スペクトラム障害の人の20~40%注意欠如・多動性障害の人の20~50%うつ病を併発しているといいます。発達障害の影響で二次的にうつ病を発症することは決して珍しくないのです。

第3章発達障害のうつ病患者の治療は個別対応も必要になる

それでは、発達障害が背景にあるうつ病患者に対する治療と、一般的なうつ病患者に対する治療に何か違いがあるのかといえば、基本的に変わりはありません

ただ、発達障害特有のこだわりの強さを持った人などに対して個別の対応が必要な場合があります。「ゆっくり休養してください」と声を掛けたときに、「何をしたらいいのか分からない」と戸惑ったり、「一日のスケジュールが決められていないと落ち着かない」と不安を感じたりする場合があるのです。そういうときは「1時間はベッドに横になって休んで、次の1時間は軽く運動しましょう」などと具体的に指示することがあります。

気を付けなければならないのは、うつの症状が治療である程度改善しても、発達障害による問題を放置したままだと、うつの病状の悪化や長期化、再発につながりかねないということです。うつ病の治療をまず優先し、そののちに発達障害の問題に適切に対処する必要があります。

第4章生活のリズムを整え、職場の環境を変えることで対処

発達障害に対しては、薬物療法のほかに、心理教育(病気について理解してもらう教育)、認知行動療法(思考や行動のパターンを修正する心理療法)、生活改善環境調整といった対処法があります。

このうち生活改善というのは生活のリズムを整えること。発達障害の人は睡眠が不規則になりがちで生活のリズムが崩れやすいので、決まった時刻に寝て、起きるように極力習慣づけるのです。

生活のリズムを保って
生活のリズムを保って

また環境調整というのは、仕事や生活をしている環境を本人の特性に応じて変えることを意味します。たとえば、発達障害の人が対人関係でうまくコミュニケーションを取れないのに外回りの営業の仕事で苦労しているのであれば、経理などの事務作業に配置転換してもらうことによって、少しは楽な気持ちになれるでしょう。

最後に

「友達が1人もいない」「家族とうまくいかない」「仕事が長く続かない」―。うつ病になった人で、そういう状況があれば、背後に発達障害が隠れているかもしれません。発達障害が原因となったうつ病には、状況に応じた適切な治療が必要です。先に説明したように、発達障害はその人の特性や個性であって、悪いことばかりではありません。発達障害がありながらも世界的に活躍している著名人が何人もいます。良いところを伸ばし不得意なところをカバーするための工夫をすることによって、生きづらさを緩和し、うつ病の再発防止にもつながると考えます。

今回のまとめ

  • 発達障害はその人の特性であり個性

  • 大人になって初めて診断される場合も

  • うつ病を併発するケースは珍しくない

  • 生活のリズムと身を置く環境を整えて

うつ病と大人の発達障害、気をつけるべきことは何?のまとめ

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院 (医師)松本 進( まつもと すすむ )