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そのとき家族は?ほっとく?どうすべき?うつ病との接し方

◎うつ病患者に家族はどう接したらいいのか

うつ病は決して特別な病気ではありません。夫や妻、息子や娘、あるいは父親であったり、母親であったり、家族の誰かがうつ病になっても不思議ではないのです。そのとき、周りの家族はどう接したらいいのか、どのような言葉を掛ければいいのか。戸惑いもあるでしょうし、不安にも駆られることでしょう。うつの症状を見せている人、うつ病になった人に対する家族の接し方かかわり方について、専門の臨床心理士がアドバイスします。

第1章「外」と「内」で見せる顔が異なる二面性

「夫は職場では穏やかで、頼りがいがあると評価されているらしいのですが、家庭に戻るといきなり怒り出したり、妻の私が言うことを無視したりするんです」

うつ病患者の家族の話を聞いていると、このような声を聞くことが少なくありません。不知火病院(福岡県大牟田市)の徳永雄一郎理事長(*1.参考文献)によると、うつ病患者には「外」で見せる顔と、「内」で見せる顔がまったく異なるという“二面性”があらわれることがあります。

仕事をしているうつ病患者の場合、職場では本音を抑えて周りの期待に応えようとしてストレスを抱え、その反動で家庭では極端に無口になったり、抑圧されたものを一気に噴き出したりすることがあるのです。そうした感情をぶつけられ、家族も疲弊していきかねません。

*1. 参考文献
徳永雄一郎「働きすぎのあなたへ 新・ストレス処方箋」(2002年、海鳥社)
徳永雄一郎「「脳疲労」社会 ストレスケア病棟からみえる現代日本」(2016年、講談社)

第2章イライラや抑うつ感が伝染し悪循環に陥ることも

家族が「本人のために何とかしてあげたい」と思っているのに対して、逆に本人は「ゆっくりさせてほしい」とか「そっとしておいてほしい」という気持ちでいる―そういった“感情のすれ違い”はよく起こることです。

いったん感情がすれ違うと、歯車がなかなかかみ合いません。そうなると患者本人のイライラや抑うつ感が家族に“伝染”して、その気持ちがまた患者本人に“伝染”して…と、悪循環に陥ることがあります。ある患者家族は「どんなに励ましたり慰めたりしても本人はうじうじしていてマイナスなことしか言わないし、こちらのほうがイライラして気が滅入ってしまいます」と体験とともに心境を語ってくれました。

感情のすれ違いは悪循環を招きます
感情のすれ違いは悪循環を招きます

家族だからこそ、感情を抑えきれず、本人の言動一つ一つに振り回されやすくなります。こうした、患者との心理的な距離が近く、感情的に揺さぶられてしまっている家族のコミュニケーションのことを高EE(High Expressed Emotion)と言います。感情的なやり取りが続くと、それが本人の症状悪化につながり、家族も疲れ切って、結局は共倒れになってしまいます。

では、共倒れにならないためにはどうしたらいいのか。まずは、問題を家族だけで抱え込まないことが大切です。例えば、病院への受診は患者本人の治療だけでなく、家族の負担を軽減することにもつながります。診察の結果、入院することになれば、本人と家族が物理的に距離を置くことになり、家族も負担が軽くなって余裕を取り戻すことができます。それも入院治療のメリットの一つです。

第3章「家族の会」で病気や患者に対する理解を深める

私が勤務する不知火病院には、うつ病治療専門のストレスケア病棟「海の病棟」があります。入院後、ある程度治療が進むと、主治医による家族面談が行われ、本人の病状や治療経過についての説明のほか、必要に応じて家族の接し方なども話し合われます。

また、治療の一環として、入院患者の家族を対象にした「家族の会」を月に1回開催しています。参加する家族は多いときで15人くらい、少ないときで7、8人。医師や看護師、臨床心理士、精神保健福祉士、作業療法士など医療スタッフが交代で進行役を務め、うつ病がどんな病気で、どのような治療が行われているのかなどについて説明します。

講話だけでなく、医療スタッフとの質疑応答、家族同士の意見交換や情報交換を通じて、うつ病やうつ病患者に対する理解を深めてもらい、家族が適切に対応できるように手助けをするのです。

うつ病患者の家族は周囲に相談しづらく、孤立しがちでもあります。家族の会に参加することによって、同じような悩みや不安を抱えている家族がほかにもいることを知り、「私たちの家族だけじゃないんだ」と安心感を得られることも多いようです。

第4章うつ病が、家族と患者本人との関係を見直すきっかけともなる

「うつで入院することになって、息子がストレスを抱えていたことに初めて気づいた」「これまでこういったことを話すことがなかった」といったことを語られる患者家族もいらっしゃいます。うつ病が、改めて家族が本人と向き合って話すきっかけとなることがあります。

その一方で、うつ病になったことによって、患者本人と家族との関係うまくいかなくなることがあります。その中には、もともと家族関係の問題が背後にあり、本人のうつ病をきっかけにそれが表面化するというケースもあります。

うつ病を引き起こす背景に家族間のコミュニケーションの問題があるとすれば、その点を改善しなければ根本的な解決にはならないでしょう。そうした場合、患者本人の治療だけではなく、家族にも本人とのかかわり方、接し方を見直してもらう必要性が出てきます。家族の関係を安易に問題視することはできませんが、患者本人とのコミュニケーションがうまくいかないという場合には、家族もみずからのかかわり方を見直してみることで、解決の糸口が見えてくるかもしれません

みんな本当はわかりあいたいと思っています
みんな本当はわかりあいたいと思っています

最後に

うつ病患者の家族から、患者本人に「がんばれ!」と声を掛けるのは良くないのではないかという質問を受けることがあります。確かに、ひどく落ち込んで頑張ろうとしても頑張れない状態のときに「がんばれ!」と声を掛ければ、さらにつらい状況に追い込むことになりかねません。しかし退院して社会復帰しようとする段階で「病気が再発するのではないか」と不安を感じているときに「大丈夫、がんばって!」と背中を押してあげるのは必ずしも悪いことではありません

身近な家族だからこそ気付く変化があるでしょうし、家族だからこそ力になれることもあります。イライラや抑うつ感が伝染して悪循環となるという話をしましたが、逆に、健やかさというのも循環するものです。私は精神科の治療に携わる中で、「人は人の健やかさに触れて健康を取り戻していく」という面があると感じています。家族が健康を維持することは、本人の回復にとっても、意味のある大切なことなのです。基本的には患者に寄り添いながらも、ほどよく距離をとって見守るような姿勢が大事と考えます。

そして、家族がうつ病になったことを気に病むのではなく、家族の関係を見つめ直す良い機会としても捉えてみてはどうでしょうか。

今回のまとめ

  • イライラ不安は家族にも伝染する

  • 感情的なやり取りは状況悪化を招く

  • 問題を家族だけで抱え込まないこと

  • 適度な距離を保ち見守る姿勢で

そのとき家族は?ほっとく?どうすべき?うつ病との接し方

書いたヒト福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院診療情報管理室主任(臨床心理士・公認心理師)杉本 浩利( すぎもと ひろとし )

杉本 浩利(すぎもと ひろとし)
うつのトリセツ うつ病を知る、防ぐ、チェック、治す。うつ予防のためにできることを。