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ストレスって何だろう?
捉え方で気持ちがラクに

◎ストレスって何?物事の捉え方で変わる

うつ病は、仕事や家庭でのトラブルなどがストレスとなって脳を疲れさせて起きるとされています。そもそもストレスとはどういうものなのでしょうか。そして、うつ病予防のために、ストレスにどう対処したらいいのでしょうか。うつ病治療専門の入院病棟がある福岡県大牟田市の不知火病院の臨床心理士が説明します。併せて、薬だけに頼らない治療法として、認知行動療法カウンセリング(精神療法)の内容と狙い、入院治療の効果について紹介します。

第1章うつの状態はまるで空気が抜けたゴムボールのよう

ストレスとは何かというと、精神的に、あるいは身体的に負担がかかるということですね。誰でも何らかのストレスを受けています。ストレス自体は悪いものではありません。適度なストレスであれば、刺激になるし、張り合いにもなるし、乗り越えることで達成感を得られます。ところが、ストレスが大きすぎると、対処できずに心身に不調をきたします。

空気が入ったゴムボールに例えて説明しましょう。ゴムボールを手で押さえつけて圧力をかけるとはね返そうとしますね。しかし、グーっとそのまま圧力をかけ続けて、空気が抜けきってしまうと、へこんでしまって、まったくはずみもしない。これがいわば、うつの状態です。

それでは、正常な状態に戻すにはどうしたらいいのか。ゴムボールならば、押さえつけていた手を離し、空気を入れ直して膨らませれば元に戻ります。うつの状態では、まずストレスから離れて休養をしっかりとることが、エネルギーを回復させることにつながります。

まずストレスから離れましょう
まずストレスから離れましょう

ストレスへの対処法として、腹式呼吸も効果的です。手をおなかに当てて、1、2、3、4と息を吸い込み、5で息を止め、次に6、7、8、9、10と息を細く長く吐きます。ゆっくり呼吸をするだけでもリラクセーションの効果がありますが、息を吸い込むときにエネルギーを身体に取り込み、吐く息とともに日ごろの疲れや不安を外に逃がすイメージを加えるとより効果的です。数分繰り返すことで、緊張をほぐすことができます。

第2章同じ出来事でも、受け止め方で大きな違いが生じる

うつ病の治療には、認知行動療法というものがあります。簡単にいえば、自分の考え方を見直し修正することによって、うつの症状の改善を図る治療法です。

「認知」というのは、物事に対する考え方、捉え方のこと。例えば、友人に「おはよう」とあいさつしたのだけれど返事がなかったという出来事があったとします。この出来事をどう受け止めるかによって、その後の感情や行動に大きな違いが出てきます。

  • A. 「きっと嫌われている」「無視された」と思って、「不安」や「怒り」の感情を抱き、「走って逃げだした」「相手を非難した」という行動をとった。
  • B. 「気づかなかったかな」「急いでいるのかな」と思って、「平静」に受け止め、あるいは「気遣う」気持ちで、「もう一度あいさつした」「そっと離れた」という行動をとった。

状況次第で、Aのネガティブ(否定的)な反応も、Bのポジティブ(肯定的)な反応も、両方あり得ます。Aが悪いとか、Bが良いとか、AをBに変えましょうと言うためにこの例を示したわけではありません。問題は、その出来事に対する捉え方が妥当なのかどうか、合理的な判断に基づくものだといえるかどうかです。

第3章自分の考え方のクセに気付いて修正を図っていく

うつの症状が進行すると捉え方の視野が狭くなり、根拠もなく勝手に思い込み、必要以上に不安になったり、恐れたりしてしまい、よりストレスを強めるといったことが起こります。言うなれば、自分でストレスを生み出している状態です。そういった認知のパターンのことを「考え方のクセ」と呼んでいます。

例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • 先読み 根拠もないのに良くない結論を予想してしまうなど、悲観的な考え方
  • 自己批判 物事を自分に関連づけて考えやすく、うまく事が運ばないときに「自分のせいだ」などと必要以上に自分を責めてしまいがちな考え方
  • 白黒思考 完璧主義とも言われる考え方で、物事を成功か失敗か、良いか悪いかなど極端に捉えてしまいがちな考え方

認知行動療法の認知再構成法は、ストレスとなった状況、その時の気分(感情)、頭に浮かんでいたこと(自動思考)を書き出して整理する技法です。ネガティブな気分の元になっている思考について、その思考を裏付ける「根拠」とともに、それ以外の見方や考え方を「反証」として挙げていきます。「根拠」と「反証」を照らし合わせて、より現実的でバランスのよい思考(適応的思考)を導いていきます。

私が勤める不知火病院のリワークプログラム(復職支援)の中で、「思考バランスシート」を用いて、自身の考え方にどのようなクセ・傾向があるのか、客観的に見つめるための機会づくりにも取り組んでいます。自分の考え方のクセに気付き、どこに問題があるかを整理し、バランスの取れた考え方に修正をすることで、ストレスを減らすことができます。

第4章入院生活が自分を客観的に見つめ直すきっかけになる

うつ病治療において、症状の緩和だけでなく、再発予防の対策をとることは大切です。ストレスを生み出しているような自分の考え方や行動のパターンを見直すことは、再発予防の重要なポイントとなります。

不知火病院にはストレスケア病棟として「海の病棟」があります。先に述べたように、うつ病の治療はまず休養することが大切ですが、エネルギーが回復してくると、作業療法などの治療プログラムが始まり、それと並行して入院生活内での活動範囲も徐々に広がっていきます。その中で、その人が持っている行動のパターンが現れてきます。例えば、「こだわりが強くて手を抜けない」とか「困っているのに相談したり、頼ることができない」というようなことです。そういった行動パターンの背後にある考え方のクセに気付いて見直すことや、違ったやり方を試してみることが、治療を展開する大きな要因となります。

あなたの思考のクセは?
あなたの思考のクセは?

入院している患者さんにはさまざまな考えや傾向をもつ方がいらっしゃいますし、回復程度もそれぞれ異なっています。そういった他の患者さんとの交流が治療を促進する要因ともなり得ます。患者さん同士が互いに意見を交わすことによって、自分と異なる物事の捉え方をする人がいることがよく分かりますし、自分を客観的に見つめ直すきっかけにもなります。ストレスケア病棟というと休養の側面が注目されがちですが、入院生活そのものが治療であり、認知行動療法的な要素を含んでいると言えます。

最後に

私は臨床心理士としてうつ病患者のカウンセリング(精神療法)にも携わっています。不知火病院の場合は、臨床心理士のほかに、特別な教育を受けた看護師がカウンセリングナースとして担当しています。私たちは患者さんの話に真剣に耳を傾け、できる限り心情に寄り添う姿勢で臨んでいます。カウンセリングは言語を介した治療行為で、カウンセリングで話される内容は、入院生活上の不満であったり、家族関係の悩みだったり、仕事に復帰できるのかという不安であったり、実にさまざまですが、そういった自分の思いや体験を言葉にすることで、自分について振り返り整理するお手伝いをしています。

治療を終えた患者さんの一部には、その後の経過についての追跡調査に協力してもらっている方もいます。その中には、「自分の生き方を見直す機会になりました」とか、「自分にとって何が大事なのかということに気付かされ、そのことをいつも考えて生活するようになりました」などと感想を書いてこられる方がいます。うつ病で治療を受けること、休職して入院することは人生全体からみれば必ずしもマイナスではなく、自分自身を見つめ直す良い機会になったと捉えている人が多くいます。

今回、うつ病の再発予防において重要となる、自分の中にある考え方のクセや行動のパターンを見直すことについてお話しさせていただきました。これはうつ病患者に限った話ではありません。人は知らず知らずのうちに考え方のクセを身に付けているものです。自分の中でつくられた思い込みやある種のとらわれが、物事の捉え方を歪ませ、ストレスを強めていたり、不必要にエネルギーを消費したりしているかもしれません。うつ病に陥らずに過ごしていくために、時にはいったん立ち止まって今の状態を確認し、自分の中によりストレスを強めるような考え方のクセがないか、振り返ってみてはいかがでしょうか。

今回のまとめ

  • ストレスは必ずしも悪いものではない

  • 強いストレス状態が続くとうつ状態に

  • 思考のクセがストレスを強める事も

  • 自分を振り返って見つめ直す機会を

ストレスって何だろう?受け止め方で気持ちがラクにのまとめ

書いたヒト 福岡県大牟田市の医療法人社団新光会不知火病院 診療情報管理室主任(臨床心理士、公認心理師)杉本 浩利( すぎもと ひろとし )