うつ病の症状から考える
"こころ"と"からだ"の関係
◎"こころ"の不調からくる"からだ"の不調に目を向けて
うつ病の症状は「気分が重い」「やる気がでない」「悲観的になる」「自分を過度に責めてしまう」などの精神症状をイメージする方が多いかもしれません。しかし、実際には「食欲がない」「頭がすっきりしない」「音に敏感になる」など、さまざまな身体症状が見られます。今回は、うつ病の精神症状"こころ"だけでなく、身体症状"からだ"にも関心をもつ医師が、うつ病の身体症状について、またうつ病の精神症状と身体症状の関連について解説します。
第1章うつ病は"こころ"だけでなく"からだ"にも存在が
うつ病というと、精神症状"こころの症状"、つまり「気分が重い」「なにもしたくない」「自分はだめな人間だ」と落ち込んだり、症状が重くなると「消えてしまいたい」と深刻に思い悩んだりする姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際には、うつ病の方の多くは、身体症状"からだの症状"を伴っています。「頭痛がおこる」「肩がこりやすい」「めまい、立ちくらみがある」「吐き気がする」「腹がはったり、下痢をしたりする」などの症状だけでなく、「後頭部がつまった感じで頭がスッキリしない」「音に敏感になる」「食事をしても味がしない」「口がかわいたり、口の中がねばねばしたりする」など、さまざまな身体症状があります。
私が勤務する福岡県大牟田市の不知火病院では、うつ病かどうかを判断する指標として、独自のストレスチェックテストを活用しています。精神症状だけでなく、多くの身体症状の項目を含んでいるので、原因が特定できていない身体症状がある方も、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
このテストは精神症状と身体症状の計40項目で構成されており、当てはまるものには 〇印(2点)を、時々あると思われるものには △印(1点)を、該当しなければ×印(0点)を付け、合計点でストレス度を評価します。
合計点が
- 0~14点:ストレス度は高くないし問題なし
- 15~24点:中等度のストレスで脳も疲労気味
- 25~34点:脳疲労状態で集中力が低下気味
- 35~39点:重度のストレスで前うつ病状態
- 40点以上:うつ病が疑われる
という評価になります。35点以上であれば、早めに専門医に受診することをお勧めします。また、点数は低くても、心配であれば専門医に相談した方が望ましいと考えます。
第2章うつ病の精神症状と身体症状は関連して変化する
これまで述べてきたように、うつ病には精神症状"こころ"だけでなく、身体症状"からだ"が併存します。身体症状の種類や頻度に関する研究や報告は多くみられますが、うつ病の治療過程で身体症状がどのように変化するのか、また精神症状と身体症状の変化は関連しているのかといった時系列の変化に関する研究や報告は少ないようです。
そこで、うつ病の精神症状と身体症状の変化に着目した研究を行っています。不知火病院に入院した方を対象に、ストレスチェックテストなどの尺度を用い、入退院時でのスコアの変化を調査しました。これらは統計学的に解析し、日本うつ病学会や九州精神神経学会などで報告しています。
結果を簡単に説明すると、
- うつ病の治療で精神症状は改善した
- うつ病の治療で身体症状も改善した
- 精神症状の変化と身体症状の変化は関連している
つまり、精神症状がよくなれば身体症状もよくなるということが分かりました。統計学的にも有意であったため、うつ病の精神症状と身体症状は関連して変化すると考えています。
今後は、うつ病に特徴的な身体症状はあるのかということや、改善しやすい症状や改善しにくい症状などに分類できるのかということなど、さまざまな角度から分析を進める予定です。
第3章原因がわからない身体症状に気づいたら早めに相談を
このように、うつ病には精神症状"こころ"だけでなく、身体症状"からだ"が併存します。さらに、精神症状と身体症状は関連し変化すると考えています。
最後に
うつ病には身体症状があることを知らなかった方や、これまで内科や外科などを受診しても原因がわからず症状が改善しない方、あるいはストレスチェックテストで多くの症状が該当する方は、ためらいがあるかもしれませんが、早めに専門医に相談されることをお勧めします。
今回のまとめ
うつ病は"心"と"身体"に症状が出る
"心"がよくなれば"身体"も良くなる傾向
ストレスチェックテストで状態確認を
お悩みごとは専門医に早めのご相談を