うつ病かな?当てはまる項目を自分でストレスチェック診断
◎ストレスチェックで自分の心の状態を把握しよう
誰でもなる可能性がある病気である「うつ病」かどうかを診断するストレスチェックリストというものがあります。日常の行動や身体に現れる症状をチェックして、ストレスによって脳がどれだけ疲労しているのかを簡易的に調べるためのものです。
一般的に肉体的な疲労は分かりやすいけれども、脳の疲労と聞いてもピンときませんね。肉体的な疲労であれば、腕や腰、脚などに筋肉痛のような形で現れるでしょうけれど、脳の疲労はいったいどのような形で現れるのでしょう。
うつの症状の度合いを調べるストレスチェックリストをどのように活用するのか、そしてうつ病の早期発見、早期治療にどうつなげていくのかを紹介します。
第1章うつ病早期発見にストレスチェックリストを活用
うつ病にかかった人、あるいはうつ病になる前の段階の人たちにはどのような症状が現れるのでしょうか―。「もしかしたら、うつ病じゃないかしら」と心配しておられる方やその周囲の人たちのために私が独自に作成した不知火式ストレスチェックリストがあります。
全部で40項目の設問には、頭痛や肩こりなど身体に起きる変化を捉えるものも多く含まれています。一見すると身体の不調のように思われがちな症状も、実はうつ病を誘因する精神的ストレスによって引き起こされるものが少なくないからです。
その中に「日曜日はぐったりしている」という設問があります。余裕があれば日曜日は好きなことができるし、次の日曜日の予定を立てることもできますね。
ところが余裕がないと、計画がないまま日曜日を迎える。動こうとしても動けない。ぐったりして、テレビの前でゴロゴロしている。このような症状は本人にとっても自覚しやすいし、家族から見ても気づきやすい。日曜日にぐったりしていたら、うつ病の一歩手前、もしくはうつ病になっているかもしれないと疑っていいでしょう。
第2章ストレスチェックの合計が35点以上は...早期に専門医で受診を
「能率が悪くなり、判断がつきにくい」というチェック項目もあります。集中力や判断力が落ちると、業務が思うようにこなせなくなりますね。要するに、脳が充分に働かない状態になるということです。
具体例で言うと、1時間で終わっていい仕事が2時間かかるようになったり、車の運転でちょっとした接触事故が増えたり、家庭の中でもお湯を沸かしっぱなしにしてしまうとか、料理を作るときに塩をどのくらい使うのか判断がつかずに時間がかかるとか、普段ならあり得ないミスが起きてしまうということです。
こうして、その他の項目も合わせて計40項目で、当てはまるものには〇印(2点)を、時々あると思われるものには△印(1点)を、該当しなければ×印(0点)を付けてもらって、合計点でストレス度を評価します。
合計点が
- 0~14点:ストレス度は高くないし問題なし
- 15~24点:中等度のストレスで脳も疲労気味
- 25~34点:脳疲労状態で集中力が低下気味
- 35~39点:重度のストレスで前うつ病状態
- 40点以上:うつ病が疑われる
という評価になります。35点以上になれば、早めに専門医で受診することをお勧めします。
第3章複数の連続性のない痛みが同時に出てきたら要注意
福岡県大牟田市にある医療法人社団新光会の不知火病院では、1989年(平成元年)に日本で初めてのうつ病専門病棟であるストレスケア病棟「海の病棟」を開設した頃から、このストレスチェックリストを改訂しながら用いてきました。
2011年(平成23年)の東日本大震災の被災地でもこのリストが多く活用されたと聞きました。設問項目の「音に敏感」に〇印か△印が付くのは、うつの症状に特有であることも分かってきました。
しかし「海の病棟」の開設当時は、うつ病に対する世間一般の認識は薄く、今ならうつ病との関連が疑われる身体的不調を訴えている人たちの多くが精神科ではなく、内科や整形外科を受診していました。
今でもそうしたケースは少なくないと思われますが、内科や整形外科での治療だけでは根本的に改善しないまま、うつの症状を悪化させてしまうことがあるのです。
ストレスチェックリストの中には頭痛、肩こり(肩の痛み)、背中・腰の痛みや、「息苦しくなる」などと胸の痛みを訴える項目もあります。一見して異なる痛みにも見えますが、関連を持たないような連続性のない身体の痛みが複数同時に出たときは、根本原因としてうつ病の可能性を疑ったほうがいいでしょう。
第4章高いうつ病の再発率、正しく恐れて早期発見を
うつの症状があるのではないかというのは、本人が気づく場合もありますし、家族や職場など周囲の人が気づく場合もあります。
ストレスチェックリストの項目以外でも、例えば、おしゃれだった会社員の人が毎日同じネクタイをするようになったとか、着替えも入浴も面倒くさがるようになったとか、脳の疲労が異変として現れてきます。
特に、好きだったはずの食べ物を食べなくなったという場合は気を付けなければなりません。かなり体調が悪くならないとそうなりませんので。
うつ病はいつ、だれがなってもおかしくない病気ですし、発見が遅れれば遅れるほど症状が進みます。症状が悪化して一番怖いのは、生きていても仕方がないという感情になることです。うつ病は「心の風邪」みたいなものだと表現されることがありますが、決して軽い病気ではありません。
実はうつ病の再発率は高いのです。厚生労働省の資料(「うつ対応マニュアル」資料)でも、約60%が再発し、2回うつ病にかかった人では70%、3回かかった人では90%と再発率が高くなるというデータを示しています。
正しく恐れる必要があります。最悪の事態を防ぐためにも、ストレスチェックリストなどを活用して、異常に早く気付くことが重要です。
最後に
うつの症状を診断するために作成したストレスチェックリストには40項目の設問があり、さまざまな観点から異変を捉えることができるよう工夫しています。
頭痛や肩こりなど身体の不調に関する設問があるのも、実は精神的ストレスによって引き起こされているケースが少なくないからです。
一見して関連がなく連続性のない身体の痛みが複数同時に出てきた場合は、うつ病の可能性があると疑ったほうがいいでしょう。うつ病は再発率も高く、決して軽い病気ではありません。正しく恐れて、早期に異常に気付くことが重要です。
今回のまとめ
うつ病は再発率の高い病気
うつ病に掛かる前に気づくことが重要
肩こりや頭痛もうつ病の症状として現れる
ストレスチェックテストを使って早期発見を
書いたヒト医療法人社団新光会理事長 / 不知火病院前院長 / 福岡大学医学部客員教授 / 日本ストレスケア病棟研究会会長不知火病院 理事長医学博士:徳永 雄一郎( とくなが ゆういちろう )
1989年に日本で初めてうつ病専門治療病棟「ストレスケアセンター・海の病棟」を開設。2000年に日本ストレスケア病棟研究会発足、同研究会会長。「日本で初めてストレスケア病棟という新しい精神科病棟を提唱、実践し、精神保健医療福祉の発展に貢献した」として、2018年に日本精神神経学会精神医療奨励賞を受賞。所属学会:アメリカ精神医学会会員、環太平洋精神科医会議会員、日本精神神経学会会員、日本うつ病学会評議員、日本ポジティブサイコロジー医学会理事、日本産業精神保健学会評議員、福岡県デイケア研究協議会副会長。
福岡県大牟田市:不知火病院(うつ病専門病棟も)