知る

若年層に増えている
「現代型うつ病」と、その対応

気分が落ち込む抑うつ気分や、興味や喜びの減退などの症状が現れる「うつ状態(抑うつ状態)」がより悪化すると「うつ病」と診断されます。しかし、いったい何が原因となって、そのような症状が現れるのでしょうか。近年はうつ病の多様性も指摘されています。

従来の典型的なうつ病とは異なる、いわゆる「現代型うつ病」と呼ばれるうつ病が若年層を中心に増えてきているのです。その現代型のうつ病をどう捉えたらいいのか、治療法などを巡って論議も起きています。うつ病治療の臨床現場から、症例を踏まえて現状を報告します。

みなさん、こんにちは。徳永です。一般の方のうつ病への理解が少しでも広まれば幸いです。医学的な見地からの専門的な投稿となりますが、なるべく噛み砕いておりますので、ぜひお読みください。

今回の執筆者「医学博士:徳永」

第1章うつ病の原因は?
解明されていない発症メカニズム

そもそも「うつ病」とはどのような病気なのでしょうか。実は、この質問に一言で答えるのは非常に難しいのが現状です。学者によって事象の捉え方や考え方が異なり、定義が定まっていないからです。それでは、うつ病の症状はなぜ起きるのでしょうか。

脳内の神経伝達物質の欠乏によって症状が起きるという説があります。幼少期の精神的ストレスによって脳内の海馬の神経が損傷したことが基礎になっているという説もあります。最近は腸内細菌とストレスとの関係での研究も進められています。しかし、いずれも仮説にすぎません。うつ病の発症メカニズムは未だ解明されていないのです。

そして、うつ病の原因はストレスに対する脆弱性や外部要因が複雑に絡んでいると思われます。そうした中で、私は人間のストレス反応が要因だと考えています。

つまり、その人の脳にもともと弱さがあるからというものではなく、ある種の性格と仕事上のストレス、あるいは家庭内のストレスなどが一緒になって体調が悪くなったものだという捉え方をしています。

第2章増えてきた若年層の「現代型」の
うつ病、その違いは?

昔と比較して、うつ病の病態は多様化しています。私が不知火病院(福岡県大牟田市)にうつ病治療専門のストレスケア病棟「海の病棟」を立ち上げた1989年(平成元年)頃は、真面目で几帳面な性格で、主に40~50代の働き盛りの中高年男性が働き過ぎでうつ病になるとみられていました。専門用語でメランコリー型※1と呼ばれるうつ病です。

ところが、ここ10数年はメランコリー型の典型症状に当てはまらない20~30代の若年層のうつ病患者が増加してきたのです。いわゆる「現代型うつ病」と呼ばれる現代型のうつ病です。

この現代型のうつ病患者は、症状が状況に応じて変化し、他罰性や自己愛傾向が強いことが指摘されています。

例えば、ぐったりして仕事ができずに会社を早退したにもかかわらず帰宅後に友人から飲食の誘いがあれば外出するとか、本当は本人の対応の問題が大きいのに他者の責任にして批判するなどといった行動が見られます。

一見わがままに見えますが、根底に「生きていても仕方がない」という深い悲しみがあって、つらいことや嫌なことから避けようとして問題行動を起こしていると考えられるのです。

軽症であっても抑うつ感は強く、抗うつ薬に抵抗を示すケースが多くて、症状が長引きやすいという特徴があります。

胸にしまいすぎはよくありません...
胸にしまいすぎはよくありません...
※1 メランコリー型のうつ
いわゆる典型的な「うつ病」。生真面目で、律儀な性格の人に多く、中高年によく見られる。気分が晴れない、食欲不振や体重減少、特に午前中に気分が落ち込む、過度な罪悪感、などの症状を示す。

第3章攻撃的どころか、普段は自身の感情を抑えがちとの結果が…

従来型のメランコリー型うつ病患者の場合、職場では評判が良いのに、家庭では反動が起きて攻撃的になったり、家族の言うことを無視したりする感情の表出が見られます。

これに対して、若年層のいわゆる現代型うつ病患者は自己愛傾向が強く、職場や社会、家庭でも攻撃的感情が出やすいという傾向があります。

しかし、私の病院で2010年6月から2012年5月にかけて入院患者233人を対象に実施した性格テストの調査結果は、事前の予想を覆すものでした。

若年層(20~35歳)と壮年層(50~65歳)の自己認識を比較したところ、若年層の方が自身の感情をより抑え、より他者に配慮的に接しているという結果だったのです。

なぜ、臨床症状と性格テストの結果にこのような乖離が起きたのか―。この調査結果に対する考察は難しく、安易な判断は慎むべきだと思いますが、若年層うつ病の変化と多様化を実感させられる結果でした。

第4章「現代型」も「従来型」も、
疾患の本体は延長線上に

私の病院でのある症例では、10人前後が参加する中集団療法が有効な治療方法の一つであることが分かりました。自身が傷つくことを恐れて問題への直面化を避け、攻撃的になっていた患者が中集団療法で安心感を得て、内省化を促されたとみられます。

また、うつ病であり発達障害のある部分を併せ持つ「発達に偏りを持ったうつ病」と考えられる症例もあります。このケースでは患者が幼児期から自制してきた自身の感情を爆発させることで攻撃的感情の処理ができるようになりました。

いずれにしろ、こうした自己愛傾向の強い現代型うつ病の症例は増えています。ただ、現代型うつ病と従来のうつ病の病像は異なっていますが、疾患の本体は異なるものではなく延長線上にあって、時代の変化の中で「自責感」「帰属意識」「他者配慮性」などが後退し「他罰性」や「攻撃性」が表に現れてきたと私は考えています。

我慢しすぎるとついつい...
我慢しすぎるとついつい...

最後に現代型のうつ病が、若年層を中心に増えている事実と向き合う

日本うつ病学会は「現代型うつ病」について、医学的知見の明確な裏付けもなくマスメディアで広まり混乱を招いているとして、正式な専門用語とは認めていません。

しかしながら、典型的なメランコリー型うつ病とは病態が異なる現代型のうつ病が若年層を中心に増えているのは事実です。

まだ明確な病態理解や治療論は確立されていませんが、従来の治療法だけに頼らずもっと患者本人の心の中に入り込んでいかないと本質が見えてこないのではないでしょうか。

発達障害とうつ病が混在している人も治療次第で人格が発達するという症例が出始めています。知見は確実に深まっています。

お読みくださいまして、ありがとうございました。

今回のまとめ

  • うつ病の発症メカニズムは未解明

  • 現代型のうつ病が、若年層を中心に増えている

  • 「他罰性」や「攻撃性」が現代の特徴

  • 感情を抑えがちな若年層が故の攻撃性

書いたヒト 医療法人社団新光会理事長 / 不知火病院前院長 / 福岡大学医学部客員教授 / 日本ストレスケア病棟研究会会長不知火病院 理事長医学博士:徳永 雄一郎( とくなが ゆういちろう )

1989年に日本で初めてうつ病専門治療病棟「ストレスケアセンター・海の病棟」を開設。2000年に日本ストレスケア病棟研究会発足、同研究会会長。「日本で初めてストレスケア病棟という新しい精神科病棟を提唱、実践し、精神保健医療福祉の発展に貢献した」として、2018年に日本精神神経学会精神医療奨励賞を受賞。所属学会:アメリカ精神医学会会員、環太平洋精神科医会議会員、日本精神神経学会会員、日本うつ病学会評議員、日本ポジティブサイコロジー医学会理事、日本産業精神保健学会評議員、福岡県デイケア研究協議会副会長。

福岡県大牟田市:不知火病院
(うつ病専門病棟も)